クラウド・コンピューティング社会の基盤と今後の検討課題
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)は、3月4日「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書(案) 」を公表しました。ページ数は150ページを超え、ユーザ視点にも立ち、とてもわかりやすくて読み応えのある内容です。
本報告書(案)の構成は、以下のとおりです。
- クラウドの成り立ちと現状について
- クラウドの利用形態や産業・社会への浸透の具体的なイメージ
- クラウドの導入事例とユーザ側の意識・懸念材料
- ユーザなどの各主体が重視すべきポイント
- 今後のクラウドの進展に伴う検討課題
クラウドの概要から市場動向、技術動向、外資や日系企業のクラウドへの取り組み、海外でのガバメントクラウド、クラウド技術、クラウド利用ユーザ事例、クラウドの利用調査、クラウドの課題など、かなり幅広い内容を網羅しており、これを読めばクラウドコンピューティング全体像を俯瞰できるという内容です。特にガバメントクラウドに関しては、私が読んだ日本語の文献では一番詳細に書かれているという印象です。
6章では、今後のクラウドの進展に伴なう検討課題があげられていますので、少しポイントをまとめてみたいと思います。
クラウドの利用拡大に伴なう環境整備では、「クラウド活用指針策定」の必要性をあげています。活用指針の内容としては、技術的な内容よりもユーザ視点でのメリットを最大限に生かすための活用方法や想定されるリスクとそれを回避するために考慮しておくべきことをわかりやすく解説していく必要性を示しています。
また、「サービス選定のための情報公開制度」の必要性をあげています。公開すべき情報としては、サービス品質に関する情報で、現状では稼働率の保証値のみなので、事故発生時の復旧に関する情報やセキュリティを確保するための管理条件など、ユーザの関心事に答えられる情報を提示すべきであるとしています。その他、サービス提供の継続性という観点から経営の健全性に関する企業情報の公開も必要ではないかと指摘しています。
次にセキュリティでは、「クラウドに対するセキュリティ上の脅威とインシデント事例」をあげ、外部からのクラウド環境への攻撃やクラウド環境内部から他のクラウド利用者への攻撃、クラウド踏み台とした攻撃などがあげられています。その他、IPAだけあってかなり詳細にセキュリティの解説がされていますが、省略します。
クラウドの今後の進展に関する技術課題では、「クラウドに対応したソフトウエア・エンジニアリング技術の開発」を最初にあげています。クラウドにより開発基盤上で、不足分のみカスタマイズや独自開発というスタイルが主流になり、ソフトウエア・エンジニアリングのすべての側面について見直しを行う必要があるとしています。また、「クラウドに関する技術についての特許などの権利問題」や「IPv4からIPv6への移行期(混在期)における課題」や「クラウドにおける相互運用性」についても課題としてあげられています。
そして、クラウドの構築とOSSとして、「クラウド構築におけるOSS適用拡大に向けた日本の取り組み」をあげ、欧州との取り組みを比較しています。
最後に、クラウド利用の進展に伴ない求められる人材とその育成として、どのようにITを使って経営を効率化させるか、顧客価値を生み出すか、という企業のIT部門本来のミッションにさらに重点がシフトしていくとしています。そのため、クラウドの特性を理解し、クラウドだからできる新しいビジネスモデルやプロセスモデルを創造していく人材が求められるとしています。また、ベンダ企業や企業経営の中でクラウドを活かす人材やクラウド上でシステムを構築する人材などについても人材像を個別にあげています。クラウド時代は、時代の変化とともに、人材像も大きく変化をしていかなければならないようです。
150ページ以上の内容なので全くまとめることはできませんでしたが、いずれにしても、クラウドに関して非常に網羅性の高い充実した報告書です。
特に今後、クラウドが本格的な普及に向けて、多くの課題が顕在化していくことになりますが、それらを各々解決していくためには、企業だけではなく、標準化をはじめとした政策面での後押しも重要となっていくでしょう。