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「きずな」はインターネット社会にどんな変化をもたらしてくれるのか?

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三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、223日、超高速インターネット通信衛星「きずな」を搭載した大型ロケット「H2A」14号機の、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターからの打ち上げに成功しました。今回の「きずな」の打ち上げは、インターネット社会にどんな変化をもたらしてくれるのでしょうか? ここでいくつか整理をしたいと思います。

 

P2P技術を利用した配信実験

「きずな」の打ち上げの様子は、街頭ビジョンをはじめ科学館やJAXA中継会場など19カ所でライブ中継されました。また、財団法人マルチメディア振興センターは、222日、「きずな/H-IIAロケット14号機打ち上げ中継をP2Pで配信」を発表し、中継映像を、P2P技術を利用してインターネット上で配信する実験を行いました。

 
今回のP2P配信実験の特徴は、

  • アクセス数に応じて柔軟にリソースを適応
  • 高いビットレートによるライブ中継配信
  • 近くの視聴者からの映像と音声を集めることでインターネットの負担削減
  • 通信事業者・ISPと連携したネットワークへの影響の検証

等があげられます。

 
P2P
はこれまでWinny等の利用でネガティブなイメージがありましたが、最近は肯定的なイメージを持つ人も増えてきています。

 
また、総務省が
221日に発表した「我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算」を見ると200711月時点の平均のトラフィック容量は800Gbspとなり、3年で2.5倍となっています。急激な利用者数が見込めずトラフィックだけが大幅な増加傾向の中で、サーバの負荷を軽減し安定した通信を実現できる技術であり、特に一時的なトラフィックを集めるライブ配信等では、今後事例も増えることが予想されます。

 

超高速衛星通信への期待と懸念

「きずな」は、国内や東南アジアを広くカバーするアンテナを備え、最大毎秒1.2Gbpsの通信機能を備えています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報通信研究機構(NICT)が中心となり、基本的な通信性能を試す「基本実験」を進め、その後利用実験を行い、約5年の技術検証を実施します。

 
今回の主なテーマとして、

  • 緊急臨時無線ネットワーク
  • 高精細のスーパーハイビジョン放送
  • 遠隔医療
  • 遠隔授業 

などの実験を行う予定で、

  • 大災害時の通信手段の確保
  • ネット環境の整備が遅れている離島
  • 山間地域の情報格差解消

等への利用が期待されています。

 
一方、懸念事項として、

衛星通信が実現するまでには約5年の技術検証を実施するとすれば、それまでには、日本国内の通信インフラも充実していることでしょう。デジタルデバイド解消に向けて、光ファイバーの整備やWiMAXと呼ばれる次世代無線通信の普及も予定されています。ブロードバンド・ユビキタス時代はすぐそこまで来ています。さらに、自治体においても個別に無線インフラ設備を整備しようとする動きも出てきています。

 
高速衛星通信の実用化の目処が立ったときには、その優位性を失ってしまう懸念もあります。国内だけでは活用シーンも限定的なので、東南アジアを広くカバーするアンテナを備えている利点を生かし、「アジア各地の防災管理機関に災害情報を配信」や「日本と東南アジアを結ぶ
eラーニング」等普及していくためのプラットフォームの共通化の検討も必要になってくるでしょう。また、継続的に活用できるビジネスモデルの構築し、収益が見込めるモデルを検討していく必要も出てくるでしょう。

 

最後に

今回の「きずな」の打ち上げは、無事成功したことはうれしい限りですが、これからが本番です。今回利用されたP2P技術は昨年86日に設立されたP2Pネットワーク実験協議会を中心に今後さらなる検討が進められていくことでしょう。技術の検証だけでなく社会的理解への取り組みも必要になってくるでしょう。

 
そして、超高速衛星通信「きずな」は、これから様々な検証が行われます。災害対策や情報格差解消への有効性が期待されますが、他のインフラサービスとの差別化やビジネス化に向けてはいくつかのハードルを越えていかなければならないでしょう。

 
しかしながら、今回の「きずな」の打ち上げは、これからのインターネット社会への変化への期待と大きな夢を与えてくれたのは間違いありません。何年か後に超高速衛星通信の恩恵を享受できる時代が到来し、様々な分野で活用されることを期待しています。

 

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