« 2008年11月21日

2008年11月26日の投稿

2008年11月28日 »

永井さんから『戦略プロフェッショナルの心得』をいただき、何度か読ませていただきました。

大学時代に学問としてマーケティングを学んだ身として、懐かしく思う話題もありますし、知らなかったこともたくさんあります。そして何より学問として学んだことが実例として紹介されているような部分は感動しました。ああ、勉強しているときは『マーケティングなんて机上の空論』と言われたこともあるけど活用されているところもあるんだな、と。

それはさておき、本日妹尾さんがこんなことをブログに書いておられました。

結論として言いたかったのは、数字、というのはある面絶対的な存在に感じられるけれど、ケースによってはどうとでも作ることができる、ということである。

抱き込め!ユーザー、巻き込め!デベロッパー > わ!”数字の魔術師(マジシャン)”が来たぞ!騙されるな! : ITmedia オルタナティブ・ブログ <http://blogs.itmedia.co.jp/usrtodev/2008/11/post-a062.html>

先述の戦略プロフェッショナルの心得では、第一章が「第一章 市場と顧客を理解するために」となっています。この章では他の章に先立って市場調査などを通じて市場を理解することの大切さが説明されています。マーケティングというと派手な宣伝や商品開発などに目を奪われがちですが、リサーチのところがまず一番に説明されているところがすごいと思いました。

自分が学んだ知識を紹介させていただきますと、マーケティングは20世紀初頭のアメリカで発達したとされます。

  • 大量生産のための技術が整備された事と、鉄道網が整備された事により、アメリカ国内では消費のスタイルが大量生産・大量消費に切り替わります。
  • これにより以前とは比較にならないほど大量のものを作り、売ることができるようになりますが、同時にものが余るという現象が発生します。
  • 鉄道輸送に要する時間と倉庫の制約から、足りない地域へ在庫を移動する、在庫が切れないようにする、などの「物流(ロジスティクス)」の考え方が発達します。(4PのPlace)
  • 更に在庫状況の監視から、売れる商品を予測したり(Product)、在庫を抱え過ぎないように価格を調整したり(Price)、在庫を解消するための販売促進策(Promotion)を考えたり、といわゆるマーケティング的な手法が花開いていきます。

何年も前に学んだ事ですし、20世紀初頭の古い話ですので異説は各種あると思いますが、おおむねこういった流れでマーケティングが進化していったとされます。その前提となるのは広大なアメリカ大陸の広大な市場にどうやって商品を販売していくか、ということでした。ここからマーケティングはスタートしています。

それまでの一個人や一都市の中でやり取りされる量とは比較にならない大量の商品が取引される事になりますので、勘や経験では商売を成功させることは難しかったでしょう。また、商品こそ大量生産による単一規格品ですが、市場は東海岸から西海岸、北部州から南部州まで非常に多様です。今の日本のようにトラックが走り回って配り切れるような広さではありませんから、鉄道を中心とした輸送を考えなくてはなりません。鉄道はダイヤが決まっており、輸送できるタイミングは数日に1回などシビアなものになります。そのため、最低限のラインとしてそれぞれの市場での売れ行きと在庫を細やかに把握しておく必要があったことでしょう。(アメリカのこの時代の背景についてはNHKスペシャル「世紀を超えて」プロローグの「20世紀 欲望は疾走した」を見ることをおすすめします)

そういった背景からしてマーケティングの基本となるのはマーケティングリサーチであり、どのようにリサーチを行なうか、リサーチ結果をどう読み解くか、というところが非常に重要になってくるというのは永井さんの著書の第一章にも記載の通りであると思います。しかしながら、妹尾さんのおっしゃる通りに先に計画ありきの考え方で、都合の良いリサーチ結果を持ってきてしまうということが起こり得ます。

マーケティングを学んで私が一番素晴らしいと思ったところは、マーケティングの理論に基づいて作成した計画は、他人と客観的に議論をする下地になるというところです。

確かに、自分がそうしたいと思うことがあったならば、4Pやら4Cやらを持ち出して理論武装をすることでマーケティングに造形のない人を説得する事は簡単でしょう。しかしマーケティングに詳しい人を連れてきて、その下地となるデータの検証を行った上でマーケティング戦略のチェックを行えば間違いを見抜くことができます。もしこれがマーケティング的な論理を持ち合わせず、推進者の熱意とやる気でステークホルダーを説得するのであれば、誰も検証を行なう事ができません。また、事後からの反省も不十分になってしまいます。

確かにマーケティングの理論を持ち出して武装すれば説得力のある資料を作ることができるでしょうが、同時にマーケティング理論に基づいた検証という攻撃に身を晒す事にもなります。母数をいじるなどして前提となる調査自体を細工しまうということは検証が難しいかもしれませんが、新旧の調査結果を見比べたり、別の調査主体のデータと付き合わせることで調査自体に問題があることに気付くチャンスは少なくありません。それは論理に基づかない計画を進めるより遥かにましだと言えるでしょう。

マーケティングではあまり難解な数式などは好まれず、むしろ直感的に理解可能な図表であったり、物事を4つくらいの要素で無理やり分解してしまうような操作が好まれます。それはマーケティングのプロフェッショナルだけでなく、多種多様な分野のプロフェッショナルを巻き込んで様々な意見を戦わせるための土台を作り、十分な検証を受けることこそが良い戦略を作る条件であるからではないかと思います。そうすることで多くの利害関係者が納得し、合意した戦略を作成することができます。自分が理解できない戦略を押し付けられることは誰もが嫌ですが、自分が納得し、成功に確信を得られる計画ならば全力で打ち込むことができます。それがマーケティングの力であると思います。

そういった観点からすれば、調査結果の母数を意図的に遮蔽するということは非常にマーケティング的でない行為であると言えるでしょう。めっ。

yohei

NetBook、いわゆる5万円ノートPCが好調なようです。

レビュー記事、比較記事を多く見かけたのですが、松岡さんのこちらの記事が心に残りました。 

先にも述べた通り、とくに5万円パソコンはもともとインターネットを用途の中心とした製品である。現状では個人向けとして注目を集めているが、クラウドサービスとシームレスにつながるような「浅からぬ関係」になるのは容易に想像できる。ただ、現状として5万円パソコンや中古パソコンに搭載されている Windows XPに対するマイクロソフトの対応など、気になる点はいくつかあるが、それらの条件が整えば、浅からぬ関係が一層進展する可能性は大いにある。

確かにクラウドコンピューティングの普及が進めばクライアントはブラウザレベルの資源があれば事足りることになります。となるとクラウドと親和性の高い5万円パソコンは、その値段の安さから目玉となる他のサービスの部品のひとつとなり、おまけで配布されるような存在になることも考えられます。ではそういった使い方としてはどのようなものがあるでしょうか。

まず私が思いついたのは調査系のサービスです。今はカーナビであればVICSという渋滞情報があり、銀行には窓口の混雑度を表示しているところもあります。こういったサービスはVICSであれば超音波か電波か何かのセンサーを道路に設置したりしていますが、それと同様に街中にNetBookを持った人が1万人くらいいる状態にして、彼らに(できれば何かのついでに)リアルな情報を集めてもらうというのはどうでしょうか。

いくらネットブックが安いとはいえ、何か1つの調査だけで配布できるほどにはコストが低くありません。行動ターゲティング広告で複数社が相乗りするように、何社もでアドネットワークを形成し、ネットブックに調査依頼を配信する形が考えられます。依頼をこなした数だけ報酬を受け取れるような仕組みを整えれば参加者を募る事ができそうです。

同様のサービスとして、ウェザーニュースがゲリラ雷雨の調査隊を募ったことがニュースになりました。これと同様のことができるのではないかと思います。

Web2.0的な考えからすれば、広告を媒介にした企業と参加者の関係というのは少し現金すぎるかもしれません。できれば参加者が自由意志でブログに書いたことがトータルとして見たときに社会全体に有効になっているのが理想的だと思います。

しかし善意に基づく行動だったとしても、時にブロガーの投稿が「監視社会」のビッグブラザー的なものになってしまうことがあります。今でもファミレスの店員の態度の悪さを告発したり、 犯罪告白をしている日記を広めてしまったりということが見かけられます。それはもちろん悪いことをした本人に非があるのですが、あまりに監視が強すぎると息苦しさを感じるというバランスの難しいところでもあります。

NetBookは従来のノートPCよりも取り出しやすく、また今後はW-WANをデフォルト搭載するなどして「Net」Bookの名の通りにインターネットと親和性の高いものになっていくでしょう。そうなれば誰もが常にインターネットから情報を取り出し、また送り出すことができます。新しい道具には副作用がつきものです。上手に付き合っていけると良いなと思いました。

yohei

« 2008年11月21日

2008年11月26日の投稿

2008年11月28日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
yohei
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ