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ウィル・アイズナーの代表作『ザ・スピリット』をフランク・ミラーが脚本・監督で映画化した作品。
正直、映画としては今ひとつだった。映像は面白いけど、CGで作りこみすぎてて、フランク・ミラー好みの重い感じがあまり僕的には好きではない。暗くて陰惨だけど『シンシティ』のほうがよかった気がしたのは、新鮮だったからかなあ。「笑い」がうまく「笑い」になってない気がする。
http://wwws.warnerbros.co.jp/thespirit/

特典にフランク・ミラーのインタビューがあって、彼の目からみたアメコミ史が語られる。ニール・アダムスがアメコミにリアリズムを導入したとか、「へー」と思うことを語っている。ウィル・アイズナーについても色々語っていて、彼の名言としてこんなことを言っていた。

Inking is Sexy.

なるほどおー。僕のようなヘボでも、線を描くときの独特の気分は知っている。そう、それはセクシーなのだ。フランク・ミラーは、女性の輪郭を描くときは、体をなぞるように描くんだと、たしかウィル・アイズナーの言葉としていっていたが、それもよくわかる。アイズナーは、そういう感覚をもってマンガ論の本を書いたのかもしれない。僕がマンガ表現論をやったとき、線にこだわったのも、そういうのがあったんだと思う。

たまたま「イラストレーション」6月号(No.194 玄光社)の大友克洋×寺田克也対談を眺めていたら、「線」についての話が出ていた。
大友は、寺田が出てきたとき「フラットのが出てきたな」と思い、自分は「ペン画」で「どこかにギューッと力が入る」といっている。一方寺田は大友は「劇画の文脈から出てきたので」それは感じたが「同時にフラットな線のイメージ」もあったという。僕もそう感じていた。そのあとの線についての話は面白い。

大友 段々慣れてくると強弱になってくる。「アキラ」とかやってるとそうなるのよ。数を描くとそうなる。/マンガ家って自分の絵に慣れて来るとドンドン太くなるんです。
寺田 そういうもんですか?
大友 描きやすい線が出てくる。そこに陥る人がいてそれで絵がヘタになっていく。最初はきちんとデッサンを取ってるんだんだけど自分の線の入り方があって。
寺田 手癖で描く。歪んだりしてね。
[略]
 メビウスのあの線を初めて見た時、こんな線もあるんだって。
大友 それはやっぱりのけぞりましたね。”この1本が引けないな”って。/ついカサカサ影の線を入れてみたりするんだけど、あの人ピーッて1本引いてるだけだからね、あれはすごいね。〉(同誌20p)

この話もよくわかる。たしかに作家が自分の線自体の展開につられて、独特の癖が絵に出てきて、平坦な画面になったり、奇妙に歪んだりすることがある。もちろん、それが味になる人もいるし、一概にいえることではないが、描線が持っている性質なのだろう。大友や寺田のような図抜けたデッサン力を持った作家でなければ、むしろそれを味にするのが普通ではないか。線と、絵の構成や立体感の間には、微妙だが決定的な差があるのかもしれない。メビウスみたいに、するすると生じる線が、そのまま絵の構成・奥行きを構築していくってのは、日本の作家ではあまり見られないのだろうか。

natsume

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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