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行ってきました。狭い会場に、ひたすら原画を並べ、『AKIRA』の全原画を棚状に並べるという、まあ「工夫がない」といえばいえる展示なのだが(えらく高い位置に掲げられた原画など、どうやって見ればいいのかわからん)、いったん入って大友の原画が目に入ると、ひたすら集中してしまう。やはり、彼の画力はハンパではない。これらの絵が時代の先端を切り開く圧倒的な印象を知っている僕としては、その感覚がよみがえり、目が離せなくなる。
とにかく都市の建築の描写への思いいれは、少なくとも当時の日本マンガでは特異だった。その点でBDやアメコミに近いものがあるなあ、とあらためて感じた。大友の絵とデザイン感覚をもって、はじめて日本マンガは都市と建築を絵の主役にすることができたのかもしれない(あ、いや宮谷一彦がいるか!)。

僕も全部は読めてない旧い原画もけっこうある。とくに「饅頭こわい」(もとは落語の題)は見たかったが、あまりなくて、しかも文章が欠けていたりした。でも、その中にあさのりじの科学マンガがあり、僕も好きだったあのメカが大友さんの源流の一つでもあったんだなと思った。つげ義春ワールドも凄く楽しい。でも、この連載、単行本化もされず、図録にもない。どうにか刊行してもらえないもんだろうか。

原画の細かいところを見てゆくと、迷いなく引かれた絶妙な線、驚異的に小さな範囲に書き込まれた、はっきりと対象のわかる形象、あれほど入り組んだ建築群や森林でも、きちんと視線を誘うべきところにもっていく構成、スクリーントーンの重ねと縁消しのきれいさ、信じがたいホワイトの効果、印刷では活かしきれない色彩の妙、もういくらでも驚きが頭に湧いてきてとどまるところを知らない。絵を眺める快楽とはこのことだ。

後半に入った頃、河原和子さんに呼び止められ、見たら米澤英子さん、藤本由香里さんがご一緒で、後でコミティアの中村公彦さんご夫婦にもお会いした。同じ日、同じ時間に、奇遇という奴だろうか。少しお茶をして、大友とその影響について雑談。残念ながら仕事[注]で戸越に帰った。あ、そういえば『童夢』のへこんだ壁が再現してある前で藤本さんに写真撮ってもらいました。ありがとうございます。

注 仕事とは、本日急に入った『ビッグコミック創刊物語』の文庫化に伴う解説。「コミックパーク」連載「マンガの発見」で書いたものを転載したい、とのことだったが、読んでみたらこのまま出すのはいかにもまずいと思い、かなり書き直して送った。でも、ゲラが出る余裕はないかな、というほどの緊急仕事。

natsume

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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