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ブノワ・ペータース作、フランソワ・スクイテン画(古永真一、原正人・訳)『闇の国々 Les Cites Obscures』(小学館集英社プロダクション 4200円)は、400ページに及ぶ大部のハードカバーで、二人の作者の長いシリーズのうち3作を収めている。高い、と思う人もいると思うが、ハマる人にはそれだけ以上の価値のある本だろう。やっぱり、素晴らしいものだった。

絵が凄い。ほとんどが白黒の、欧州版画の伝統を継ぐ線画の緻密さに、建築家ともいえる建物描写の構築性、そして同時に幻想性。スクイテン(以前はフランス語読みでシュイッテンともいわれていた)のBDは、向こうではトップランクの知名度があるらしいが、僕は若干の原本を買ったくらいで、正直こんな作風でもあるのは初めて目にした。ちなみに、向こうでは伝統を持つ写真を使ったBDも入っている。

ペータースの脚本も不思議な吸引力を持ち、3作を読んでもそれぞれ方法論、設定、演出も異なり、一つの世界に収斂するというより、続くほどに開いていくような感じの作品である。いかにも、高度なレベルで二人で楽しんで遊んでいる面白さを感じる。もちろん、ヨーロッパの歴史文化文脈の中にいない僕には、おそらく肌で感じるような解読はできないだろう。でも、作品そのものが解釈可能性の自由度を持っているので、それでいいように思える。そこで想像力を遊び、楽しめるなら、それがまっとうな読みでるような感じだ。

冷たく整った都市に、突如増殖し、覆い尽くす立方体。その不思議なイメージを追う「狂騒のユビルカンド」。バベルの塔のような巨大な都市建築物の深層にいた修復師が、建築物の謎を追って冒険をする「塔」。様々な物語が同時並行で進み、この世界の向こう側へと引き寄せられてゆく登場人物たちを描き、並行世界的な不思議な出会いをもたらす「傾いた少女」。いずれも、謎や不思議は、最終的には解かれることはなく、それこそが我々の世界でもあるような読後感をもっている。その意味では、これは現代思想的な世界なのかもしれない。

日本マンガを読みなれた読者には、文章の多さに辟易するかもしれない。でも、小説を読むと思って進めば、次第に慣れ、物語に入っていける。BDの実力を知る、という意味では、これも読んでおきたい本の一つだろう。つか、僕はこのシリーズの続編も読みたい。83年に始った、架空の大陸のあちこちで起こる物語は、番外編も含めると、すでに24作も出ているらしいのだ。

http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000002610.html

http://books.shopro.co.jp/comic/overseas/les_cites.php

追伸
漫棚通信さんの紹介記事
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/

natsume

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夏目 房之介

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72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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