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ヴィンシュルス『ピノキオ』(原正人訳 小学館集英社プロダクション)。
2009年アングレーム国際BDフェス、グランプリ作品となったBD。
凶悪にしてダークな『ピノキオ』ですが、不思議と嫌な感じがしない。いや、面白い!

もともと幼少期に観たディズニー・アニメ『ピノキオ』にトラウマを持った作者が、その記憶から描いた作品らしい。ウォルト時代のディズニーには、たしかにホンのちょっと見方を変えると、まっさかさまに黒くなる何かがあるよな、と読んでいて思う。白雪姫の真っ黒なパロディも出てくるし(七人の小人は、変態集団よ!)。このへん、ディズニーがじつは好きなのに、それをどうしてもこんな風に表現してしまうフランスBD的なひねくれ方が感じられる。

絵や雰囲気には、アングラ・コミックの大御所ロバート・クラムが感じられるが、ロバート・クラムの時代的な濃さ、暗さの直截さが、意外とない。とくに色彩や風景は、混濁し汚れた世界を描いているのに、どこか上品な美しさを感じてしまう。やっぱりBDって感じ。

絵の感じは、こちらで。
http://books.shopro.co.jp/comic/overseas/pinocchio/

この作品では、ピノキオは(ただのおっさんに見える)マッド・サイエンティストに作られた最終兵器のロボット(あの鼻から業火を吹き出し、何かの代わりに使っていた博士の奥さんを黒こげに)。アニメ『ピノキオ』では、女神の命令でピノキオのお守り役になるのは、コオロギのジミニー・クリケット(そう、あの名曲「星に願いを」の場面)なのだが、この作品では、どうしようもない怠け者で、自分では小説家だと妄想してドストエフスキーを読んで挫折したり、酒びたりで逃げてばかりいる、ろくでなしのゴキブリのジミニーが登場し、ピノキオの頭に巣くってしまう。このジミニーも、なかなかいい。

ロボットであるピノキオにはどうやら人間的な意志や感情はなく、それだけに状況次第で殺戮を繰り返す彼には「悲しみ」がまといつく。が、彼の表情は、何となくかわいい。つまり、全体に主題的なものや描写やお話は、黒くて暗くて汚濁の底にあるのに、ある場面の絵や、人物の要素や、いろんなところで、相容れないかのような和むような印象を受け取るという、不思議な感じなのだ。個人的には好きな作品です。

「漫棚通信」さんは、「裏アトム」だと書いてますね。↓

http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/

natsume

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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