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最近読んだマンガの中から。

ヤマザキマリ『PIL』(集英社)
ご存知『テルマエ・ロマエ』の作者。

生活費をどんどん使い込んでしまうロケンロールなおじいさんと二人で暮らしで、アルバイトを始める女子高生が主人公。でも、彼女もじつはロケンロールで、パンク系音楽(なの?)を愛し(そのため「労働」と「労働者」を格好いいと感じている)、いつか英国に行くために貯金をし、頭を丸刈りにし、自分の価値観に絶対の自信を持っているため、日本の周囲の目など気にしていない。でも、あれやこれやの問題に、いつも悩まされている。

で、じつは作者自身も、けっこうそれに近い青春だったらしく、英国に行くつもりだったが、14歳で欧州一人旅(サラッと書いているが、相当凄いと思う)したときに出会ったイタリアの老人に説得されて高校2年でイタリアに行ったらしい。ぶっとんでるなあ。そんなぶっとび感覚が味わえるので、爽快にもなれる作品。困ったもんのおじいさんも、ときに格好いい。

ふみふみこ『女の穴』(徳間書店)
今年、月刊誌「リュウ」で、ストーリーマンガのデビューをした人。その作品と描きおろしを含めた連作。けっこう、へんな存在感で記憶にあった。

誰彼となく「私と子供作って」という美少女(じつは宇宙人)と担任がHする話「女の穴」に始まり、じつは相思相愛だった兄が死んで、顔の後ろにとりついてしまった女子高生の話「女の頭」など、相当ヘンな連作。

でも、白眉はやはり、チビでデブでハゲのおやじ教師がじつはホモで、クラスの美少年を愛し、彼を思って自慰してるところを、優等生で委員長の女子高生に写真に撮られ、彼女の「豚」になる話「女の豚」「女の鬼」連作。その女子高生は本当は、ホモ教師が好きで、しかも彼女の中の「鬼」がSで、最後は・・・・という、なかなか奇妙な味わいの作品。新人の感覚が初々しい。

で、この作家のあとがきマンガ「夢の穴」によると、夢が好きで、覚醒夢を見る練習をして、現実との境が分からなくなってやめたとか。僕も夢見が好きで、一時期凝って夢のコントロールとか試していたが、境界が曖昧になるまでは至らなかった。ヘンな人だなあ。

もひとつ、湯浅ヒトシ『大江戸雑食録 けずり武士』(双葉社)
前にも、この人の耳掻き商売の女性を主人公にした時代劇を紹介した。ソツなくうまくて、僕にはとても好ましいテイストなのだが、今ひとつ大向こうに受けるインパクトに欠けるきらいが。

『けずり武士』は、剣の達人の脱藩浪人が怪しい女に命ぜられて、世直し的な悪人成敗をする殺人者になる。が、毎回、おいしそうな江戸時代の料理が紹介されるグルメ歴史物であったりもする。これがね、ホントにおいしそうに描けてる。ただ絵がうまいだけではできない、料理をおいしそうに描く才能に恵まれた作家なのだ。

多分、食べるのが好きなんだと思うが、握り飯でもおいしそうに描ける。線に上品な色気があったりするが、両者は関係あるのかもしれないなんて思わせる。ただ、1巻目の最後の悲劇話は、ちょっと理に落ちてるかな。もっと、のほほんとしたテイストが、この人の本来のような気がする。きちんとし過ぎてる感もあるけど、僕は好きな絵とリズムです。

あるいは、先の二作のようなぶっとび感覚が湯浅にあったら、相当イケるのかもしれないけど。

natsume

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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