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馬場のぼるは、月刊誌マンガの時代に手塚治虫、福井英一と並んで三羽烏といわれたこともある人気マンガ家だった。人気連載を持ち、60年代からは大人マンガに進出し、さらに絵本作家になった。こぐま社の絵本『11匹のねこ』シリーズは計400万部近い長寿人気を誇り、今回の出版はそのこぐま社から。僕の記憶はむしろ大人マンガになってからが多いが(『ハナの長いイノシシの話』を呉智英氏と僕の共著『復活!大人まんが』(実業之日本社)にも収録)、いずれの作品もゆったり、のんびりした独特の馬場テイストで描かれ、ほんわかと幸せな気分になるものが多い。
が、現在ではあまり名前をおぼえる者も少なく、手塚関係の資料で名前を知る者も多いだろう。また手塚作品にはしばしば彼の似顔の人物が、けっこう重要な役で出演していたりするので、手塚ファンにはおなじみだ。今回の出版は、すでに現役出版物のない彼のマンガの一部を見られる貴重な機会となる。内容は、『ころっけらいおん』(62年 短編)、『プウタン』(54~57年連載 15~18話)、『ポストくん』(50~54年連載 連載終了後にまとめられた付録)、『山から来た河童』(51~54年連載)、『ウサギ汁大作戦』(74年 自伝的短編)。『プウタン』『ポストくん』が、当時のヒット作である。

馬場のぼるさんの独特な味は、春風駘蕩ともいうべきおおらかさにあり、手塚マンガに登場する彼もそんな大人(たいじん)風の雰囲気を持っている。じっさい、昔園山俊二さんにお会いしたとき「僕は手塚さんの影響は受けてないんだよ、むしろ馬場のぼるさんなんだよ」といわれ、すごく納得したおぼえがある。園山も大人マンガに行くが、こういうおおらかな作風は子供マンガからは消えていったのかもしれない。
しかし、今回読んで意外に思ったことがある。一見、のんびりホンワカした子供マンガなのだが、たとえば『プウタン』や『山から来た河童』は奇妙なほどさびしい印象があるのだ。『プウタン』の主人公の豚も、『山から来た河童』の主人公の少年・三吉も、どこか他の地からやってきた異端者で、なかなか共同体の理解を得られない。豚のプウタンは、豚の世界でただひとり狼を怖がらず、仲良くしてしまうために周囲に理解されない。三吉は、いくつかのグループや子供からそれぞれに距離を置かれ、みんな同様に仲良くすればいいのに、という三吉のモテーフは理解されない。こういう子供マンガの常として、最後にはみんなの理解が得られ、めでたしになるのだと思うが、夢の中でみんなが歓迎してくれる河童の国に行った後、三吉は他の人々を置き去りにして忽然と消えてしまうのだ。これがどんな背景によるものなのかわからないが、ちょっと異様な感じがする。
そいういえば、僕の好きな『ハナの長いイノシシの話』も、妙にハナの長いイノシシがそのために疎外されているが、じつは大昔のマンモスの化身だったという話だった。
何となく馬場のぼるの根底にあるものを感じることができる単行本であります。

natsume

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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