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ほとんど初めて疲れきった李先生を見た。驚いたのは、一見して眼に力がなく、体も一回り小さいかのように感じたことだ。こんなことは、かつてなかったと思う。来日以来数ヶ月、週に3~4回の講習会を続け、疲れが蓄積したのだろうか。逆に僕は「ああ、いつも先生がいっている、顔が輝いている、力強く感じるなどの表現は、いつもの先生に感じるアレだったのか」と思った。こういう経験で、功夫の印象を視覚的に感じることができていくのかもしれない。

そして始まった講習では、今までにない話しがなされた。それも車座になって床に座りながら、30分くらい・・・・(こんなの初めて)。メモをしておらず、印象を記憶でまとめるので、かなり僕の解釈も入るが、こんな感じだ。

〈今日は、とても重要な話をする。できるだけ多くの人に聞いてもらいたい。
太極拳でも似たことがいわれているが、いくら練習しても充実せず、むしろ力が抜けてしまうような場合がある。練習のしすぎなどで気血が足りない状態で、さらに無理をして行うと、どんどん気血を使ってしまうので、そうなることがある。そんなときは、たとえば熊形を、ぎちぎち負荷をかけてやるのではなく、気持ちいい感じで、軽く行うだけにして、掌法とかをせずにやめるのもいい練習方法だ。もっと疲れているときは、ただ走圏の姿勢をとって点検するだけでもいい。ともかく、気血が溜まるまで休むことだ。
練習を長くしていると、どうやってもあるレベルを越えられない状態で頭打ちになることがある。そんなとき、いったん休むことも重要だ。そういう状態にあった人が、病気をして練習ができず、ようやく治って久しぶりに練習を再開したら、越えられなかったレベルを容易に越えてしまうということもある。〉

長年にわたる練習の蓄積というのは、単線的に蓄積されるわけではない。そこは量というより質がかかわってくる部分で、それこそ人の様々な条件が変化し、デコボコもあるし、曲折もある。体調や気候や練習の深度など、あらゆる条件が変化する。毎日、少しずつ練習するということは、そういう変化を感じながら、どんなときにどうなるのかを体験し、対処や過ごし方を学んでゆくことである。
僕は昨年の前半、長い不調があって、それ以前よりむしろ後退したような練習しかできなかった。バランスが崩れていたのだが、かといってどうしようもなかった。ただ、崩れたなりに毎日練習するだけだった。無理はしなかった。やがて、いつのまにか抜け出した。そういうことって、ほとんど人生そのものの体験と同じで、後退局面にあっても、やるべきことを営々とやるしかない事態ってあるのだ。

李先生が、何をもって「重要な話」といったのかは、今ひとつ明確ではないが、僕は長く練習してゆく場合の重要な向き合い方のようにして、話をしたのかなと思った。

あと、ちょっと面白いなと思ったのは、練習のし過ぎなどで気血が消耗してしまう現象と、もともと持っている気血が少ない場合とは、違うような話もしていたことだ。前者は、どこか無理をしているか、練習の方法が違っているか、であって、後者は正しく練習してもまだ充分でない、ということなんだろうか。

ともあれ、李先生には少し休まれる余裕があればいいがな、と切に思うのであった。

追記
八戒さんの記事(こっちのほうが正確)「休息するにも秘伝がある」
http://d.hatena.ne.jp/nomurahideto/

これ読んで思い出した。相当経験を積まないと、上に書いた「気枯れ」状態は自覚できず、ただきちんとした師のみがわかる。だから、半端な師につくとエライことになる、そうである。まあ、ここんとこはこちらからは判断できないので、どうしようもないな。みんな、自分が正しいと思っているわけだし、習うほうもそうなるのが普通だからね。そのこと自体を相対化し、超えようとする思考は伝統系には、まずないだろうしね。

natsume

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夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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