« 2009年4月28日

2009年4月29日の投稿

2009年4月30日 »

松本正彦『劇画バカたち』(青林工藝舎)が出た!
連載で飛び飛びに読んでたけど、通して読んでなかったので、読みたかったのだ。
夕べ、寝る前に少しづつ読もうと思って読み始め、止まらなくなって3時まで読んで完読してしまった。おかげで今日は眠くてしょうがない。面白いのだ。
辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』と同じ時代を自伝的に描いているのだが、辰巳があくまで辰巳自身を中心にした、自己の輪郭のはっきりした自伝風なのに対し、主人公で自分であるはずの松本は、まるで俯瞰視点のように引いていて、周辺の人物をまんべんなくからめて当時の関係や雰囲気を描こうとしている。独特の繊細な視角から淡々と描写される。
日の丸文庫で「影」が出て、自分達の考えるマンガ(やがて「劇画」という形をとる)が評判になってゆく過程の若者たちの熱、にもかかわらず貧困の中で家族にまともに見られないマンガ家たちの屈折、そして強烈な東京への憧れ。生活感のある描写が説得力を持つ。
後半、東京進出した直後の国分寺のアパートで再会する、先に着いていたさいとう・たかをと、後からきた松本と辰巳の微妙な齟齬を、松本がとりなそうとする場面などに、松本のスタンスがよくあらわれている。
コマの割り方がこまかく、演出はじわじわと進み、今のマンガとはだいぶ違う。連載であるにもかかわらず、連載のはじめと終わりの引きの構成などが作られていないので、ずるずると読んでしまう。でも、連載時の扉も入れて本にしてほしかった気もする(扉はまとめて巻末についている)。

また、さいとう・たかをの巻末インタビュー「松本氏のこと」が、率直でとてもいい。自分は最初からプロの仕事としてマンガを考えたし、そういう風にしか描けないが、松本や辰巳は自分が描きたいから描くという作家たちで、それがすごくうらやましかったという。だからこそ、彼らにはそういう作品を描いてほしかったと。

マンガ好き、マンガ研究者必読の本がまた増えた。

natsume

« 2009年4月28日

2009年4月29日の投稿

2009年4月30日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
最近のコメント
最近のトラックバック
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
natsume
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ