« 2009年4月17日

2009年4月18日の投稿

2009年4月22日 »

『かむろば村へ』が4巻で完結した。
僕の何となく予想したのとは違う方向に行って、それゆえ面白かった。
いがらしみきおは、やっぱりすごい、と思った。

ちょっとわかりにくい話だなと思いつつファンだったのだが、最終巻になって、ようやくそのわけがわかった。予想される物語の推移は、たいてい何事かが「うまくゆく」か、「うまくいかないか」のどちらかの経緯なのだが、この物語は、そのどちらでもないあわいの道を意図的に歩いたものだったのだ。

僕がもっとも興味を持っていた、ただの老人で何もしない村の「神様」が、最終巻で死ぬ。神様だから〈今日がオレの 死ぐ日だ〉と、わかっていながら死ぬ。
彼は、その前後に、金を使うのがいやで村にきた、失敗ばかりの迷惑な若者が、行き当たりばったりな経緯で村長に立候補するのを見て、こういう。

〈なぬやっても うまぐ行がねのぬ、 なぬがやんのを 絶対やめね。〉
〈そりゃあ 人間つうのが おもろいがらだべ。〉
そして、ただの老人のように崖から落ちて死ぬのだ。

〈神様はなぬもすねえのさ、 死ぐ日が来たら 死ぐさ。〉
〈人間だったら そうは行がねべな、なぬがすんだべな。〉

いがらしは、あとがきで書いている。
昔なら、金を捨て、モノを捨てる人間を清いとか聖人だとかいったが、今はただ迷惑でうざったいだけだ。でも、もしそんな奴がいたら、というのが作品の動機だったと。そもそも今の世の90%を金とモノによる苦労が成しているとすれば、彼には残り10%の苦労だけがふりかかるだろうと。
残り10%の苦労とは何か。生きがい、老い、死、愛、お金じゃどうしようもない問題。そう、まるで大昔に覚者がいったような、大昔から人間が抱えてきた問題になってしまう。
人間はそのことを、ずーーっと考えてきた。

〈ずーっと考えたけど、なんともしようがなかった問題です。むしろ、「なんともしようがないだろう」という答えが出たような気さえします。
 つまり、この「かむろば村へ」という作品では、人間の問題がなにも解決していないのです。せめてオカネがあれば、と思うのみです。〉

大昔、ある思想家が「人間は人間の解決できる問題しか持っていない」といったような気がする。彼はオカネの問題を解決しようと格闘したらしい。でも、今はこういうふうに「なんともしようがない」と、小さな村ですら、思うほかない時代なんですかね。そういっちゃうと、すごくつまらない話になって、作品を小さくしてしまう気がするけど。

でも読後の、この感動は何なんでしょうね。
物語は、あいかわらず何も解決せず、同じように世界が続くことを暗示して終わります。
そこで何かが読者に残って終わる。いがらし本人も、この物語の一読者にすぎないような気がする不思議なマンガでした。

natsume

« 2009年4月17日

2009年4月18日の投稿

2009年4月22日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
最近のコメント
最近のトラックバック
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
natsume
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ