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ソーシャルゲームで大きな成功を収め、急成長を続けるスタートアップ企業のZynga。そのZyngaのCEOであるMark Pincusが、Businessweekの取材に対してこんな言葉を述べています:

How to Fail: Mark Pincus (Businessweek)

I think failing is the best way to keep you grounded, curious, and humble. Success is dangerous because often you don’t understand why you succeeded. You almost always know why you’ve failed. You have a lot of time to think about it.

地に足をつけ、好奇心と謙虚な姿勢を保ち続ける上で、失敗は最良の手段だと思います。その一方で、成功してもそれが何故か分かることは少ないですから、成功は危険な存在です。失敗の場合には、たいていその理由を掴むことができます。なぜ失敗したのか、時間をかけて考えることができるのです。

日本では肯定的に受け止められることの少ない「失敗」という体験ですが、Pincusの言葉が端的に示しているように、実は成功以上に私たちに多くの教訓をもたらしてくれるものです。あるいはエジソンが言ったとされる言葉、「失敗したのではなく、一万通りのうまくいかない方法を発見したのだ」のように、失敗こそが成功につながる道とも言えるでしょう。

実は昨年から、この「失敗する」、もっと正確に言えば「実験から得られたフィードバックを学びにつなげる」というテーマに関連した本が何冊か出版されています。いずれも優れたアドバイスを提供してくれるものなのですが、今回ご紹介する2冊はその中でも特に有益なものでしょう。ゴールデンウィークも控えていますし、ぜひ一緒に読んで欲しい2冊です。

リーン・スタートアップ リーン・スタートアップ  ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
エリック・リース 伊藤 穣一(MITメディアラボ所長)

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まずはこちらの『リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』。リーン・スタートアップとは、簡単に言えば「スタートアップ企業向けの新たな経営体系」といったところ。前例のないアイデアや技術を軌道に乗せようとした場合、従来の経営理論では実態にそぐわない状況が数多く発生し、逆効果になってしまう可能性も否定できません。リーン・スタートアップは新たな視点からスタートアップ企業の経営を捉えなおしたもので、新規事業を手がける企業内組織・非営利団体などにも参考になる内容となっています。

先ほど「経営体系」と表現したように、リーン・スタートアップは1つのテクニックやアプローチではなく、組織論や社内文化といったテーマも含まれています。従って本書にも様々なアドバイスが登場するのですが、個人的には先ほど述べた通り、「実験によるフィードバックを繰り返すことで成長を実現する」という発想が中心となる価値の1つではないかと感じています。

その象徴とも言えるのが、「MVP」という概念でしょう。これは「実用最小限の製品(Minimum Viable Product)」の略で、実験(一連の仮説検証サイクル)を実施するのに必要な機能を持つ製品/サービスのことです。スタートアップはこのMVPを中心に開発を行うべきであると主張されるのですが、傍から見れば、これまでも「ベータ版」や「50%ルール」といった言葉で行われてきたアプローチと大差ないと感じられるかもしれません。しかしいわゆる「ベータ」が「(本当はもっと機能を充実させたいのだけれど)できるところまで作って反応を見るための製品」であるのに対し、MVPは「最初からここまでしか作らないと決めた上で開発される製品」であるという違いがあります。その意味でMVPはベータ版ではなく、与えられた仮設を検証するという点で十分に完成した製品なわけですね。

なぜMVPを開発しなければならないのか――その答えこそが、冒頭のPincusの言葉とも関係してくる部分です。成功するためには失敗しなければならないのだとすれば、失敗を前提に行動するしかありません。であれば、膨大な時間と労力をかけて完成品をつくり、「大失敗しませんように」と祈りながら市場に投入するよりも、最初から失敗してフィードバックを得ることを目的にした方が合理的なのは明白。そこで知りたい答えを明確にした上で、それを確認するのに必要最小限の機能を持つ製品(従って開発にかかるコストも最小化されます)をつくり、最終的な成功ではなくそこに至る過程の方を「正しい方向に進んでいるか否か」の判断材料にするというのが背景にある思想です。

このように『リーン・スタートアップ』では、ある行動が儲けを出しているのかどうかより、最終的な成功や成長につながるフィードバックを生み出しているかどうかの方に主眼が置かれ、後者を確実に把握・推進するための理論が展開されます。従来の経営手法に染まった頭で読むと、違和感を覚える部分も多々あるでしょう。しかしこの「失敗から学ぶ」という大前提さえ覚えておけば、リーン・スタートアップがいかに優れた手法であるかが理解できると思います。

小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密 小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密
ピーター・シムズ 滑川 海彦

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そして2冊目が、『小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密』。こちらは以前ご紹介した本"Little Bets"の邦訳となります。

『リーン・スタートアップ』が経営学の体裁に近い本だとすれば、『小さく賭けろ!』は読み物として整えられており、より多くの人々にとって取っつきやすい一冊と言えるでしょう。従って順番としては、『小さく賭けろ!』から読む方が馴染みやすいかもしれません。

以前の書評でも書いたとおり、本書はLittle Bets、つまり「小さな賭け」を積み重ねることで新たな発想を成功させることができるという発想がテーマ。とことん作り込んだ最終製品のように、いきなり「大きな賭け」をぶち上げる(そして玉砕する)のではなく、小さな賭けで「何が上手く行くか」「問題の本質は何なのか」を把握しつつ、最終的な目標に向けて一歩一歩実績を積み重ねて行くこと。それこそが過去の経験を活かすことができない環境において、新しい道を切り開くための、より着実なアプローチであることが解説されています。

『リーン・スタートアップ』は基本的に経営書なので、登場する事例も企業が中心ですが、『小さく賭けろ!』の事例は実に様々。なにしろ冒頭から、コメディアンのクリス・ロックが登場するぐらいですから。さらにイラクに駐留した米国軍人や、グラミン銀行など、幅広い分野から「小さな賭け」の有効性が語られます。『リーン・スタートアップ』を読んだ後であれば、この手法が企業以外の世界でも使えるものではないか、という可能性の広がりを感じられることでしょう。

変化の時代と言われて久しいですが、新しい何かへのチャレンジを求められた際に、その道しるべになってくれるものはまだまだ多くありません。今回ご紹介した2冊は多くの人々にとって、貴重なアドバイスを提供してくれるものになると思います。

【○年前の今日の記事】

震災が「言論空間としてのソーシャルメディア」を成熟させる (2011年4月13日)
Twitter の"StalkDaily"ワーム、犯人は17歳 (2009年4月13日)
未来のCDジャケット (2007年4月13日)
「形式知」化できない「暗黙知」 (2006年4月13日)

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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