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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

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2011年11月30日の投稿

2011年12月1日 »

ウェブサービスと携帯電話/スマートフォンによって、私たちの生活を記録することはずいぶん楽になりました。それを他人と共有するかどうかは別にして、居場所をGPSで記録したり、夕飯を写真に収めたり、読んだ本の感想を書いたり。あるいはツイッターと連動した体重計を使って、体重を自動的にツイートすることすら可能になっています。

そうしたデータを集めて集約すれば、アクセス解析ならぬ「人生解析」ができるのではないか――思考実験レベルですが、そんなアイデアを述べている方がいます:

Personal analytics could lead to 'designed' lifestyles (Wired)

先日ロンドンで行われた"Intelligence Squared's If Conference"というイベントでの一コマ。発言者はMartin Blinderという方で、まさに様々なデータの集約ができるサービス"Tictrac"のCEOを務められているとのこと。彼は住んでいる家の価格や年収、睡眠時間などさまざまなものが計測できることを指摘した上で、こんなことを語っています:

Blinder foresees a future where we can aggregate all of these services -- our diaries, food intake, calorie expenditure, social life, location data, shop visits etc -- into a single dashboard that can interpret the data and spit out actionable insights.

The most exciting prospect for Binder is cross-referencing the data. Rather than just being able to see how your run was today compared with yesterday, you can compare all the data from your life and uncover more and more mysteries. He cited linking his diary to his running patterns and his weight. He worked out that he put on weight in the weeks where he had more business lunches.

Blinderはこうしたサービスをすべて統合できるようになるという未来像を描いている。日記や食事、カロリー消費、友だちづきあい、位置情報、入ったお店等々のデータを1つのダッシュボードにまとめ、分析して実行可能なアドバイスを生み出すというものだ。

Blinderの予測で最も面白いのは、データを様々な形で組み合わせるという点だ。今日走った距離を昨日の距離と比べるだけでなく、生活の中で生み出されるあらゆるデータと比較して、今まで気付かなかった秘密を次々に明らかにすることができる。彼は自分の話として、日記のデータとランニングのパターン、体重データを組み合わせるという例を紹介した。彼はそこから、ビジネスランチが多い週には太るという傾向を見出したそうだ。

まぁ「ビジネスランチが多ければ太る」という気付きはデータを分析するまでもなく得られるような気もしますが(笑)、確かにデータ化される現実が増えれば、それだけ複数の要素を組み合わせて分析することが可能になります。今日は運動した!と感じる日に限って体重が増える、というナゾの現象の背後に隠れている犯人をあぶりだすことにつながるかもしれません。

そんな「生活解析」、あるいは「人生解析」がウェブ解析並みに一般的な現象となり、日々フィードバックを受けて自分の行動を変えてゆく、などという現象が一般的になる日は来るのでしょうか。既に運動やダイエットなど、こうした概念を部分的に先取りしている領域が存在します。そこに要素を加えて行くという形で、「人生解析ツール」が次第に完成するのではないかという想像も可能でしょう。個人情報の流出が恐い?「体重が減る」という目に見える形でのベネフィットがあれば、情報流出のリスクを許容するという人は少なくないはずです(それが良いか悪いかは別にして)。

さらにBlinder氏はこんなことも述べています:

He said: "What if I could compare myself to others? I could understand if certain activities in my life are normal, above average, etc. Does my daughter catch too many colds? Do I spend too much on shoes given my salary? Is my sex life normal for my age, job and location? A lot of these questions are in the back of my mind. We think about, but we don't talk about them. The benefit of this is that we are able to improve ourselves."

彼はこう続ける。「自分を他人と比較できたらどうだろうか?特定の行動について、自分が一般的なレベルなのか、それとも平均以上なのかを判断できるようになるだろう。娘がカゼをひく回数は多すぎるだろうか?収入に比べて靴にお金をかけ過ぎだろうか?エッチは年相応?同じ仕事をしている人々や、近所の住民たちと比較した場合には?僕の心には、こんな疑問がいっぱい隠れている。みんなも疑問に思うだろうけど、表だって話はしないはずだ。こういった比較ができるようになれば、私たちは自分自身を改善してゆくことが可能になる」。

統合が可能になることに続く、データ化のもう1つのメリット、それがこの「比較」です。例えばスマートメーターを導入した地域で、計測された電気使用量を個人が特定されない形で統合、利用者に対して「あなたは周囲にある似たような家庭より電気を使っています」などといったフィードバックを返すという仕組みが実用化されようとしています。すると面白いことに、節電行動が促されたりするわけですね。「人生解析」がある意味で過去の自分と現在の自分を比較するものだとすれば、現在の自分と「なれるかもしれない自分」を比較するのが「人生比較」と言えるでしょうか。

スマートメーターの例が示しているように、人生解析も人生比較も、既に現在の技術でかなりのところまで実現可能です。となれば、後は具体的なサービスがどのような形で登場するか、さらにそれに対してどのような反応が広がるか。個人的には、前述のように、ダイエットなど具体的なメリットを感じやすい分野で急速に定着してもおかしくないのではと考えています。これから超高齢化社会に向かうことを考えると、ヘルスケア方面で「データを記録してもいい、共有してもいいからフィードバックをくれ」「データの読み方を教えてくれ」という人々が増えるかもしれません。

そんな人生インサイトをデータ解析から拾えるものか、個人情報を軽視するな、という反論ももちろんあるでしょう。あくまでも可能性の話であり、日本人総ボーグ化はしばらく先のことになるかもしれません。ただこんな方向に社会が動く可能性も、決して小さくないのではないでしょうか。

【○年前の今日の記事】

Twitter 時代のストリート・ギャング (2009年11月30日)
二人のスポーツ選手の謝罪 (2007年11月30日)
改めて、携帯電話にカメラがあるということ (2006年11月30日)

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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