シロクマ日報:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) シロクマ日報

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

« 2008年9月11日

2008年9月12日の投稿

2008年9月14日 »

はてブでお気に入り登録している方のブックマークから知ったのですが、バーチャルワールドでも人種差別が見られるという調査結果が発表されたそうです:

Researchers find racial bias in virtual worlds (iTnews Australia)

調査対象となったのは"There"というバーチャル世界。個人ブログの方でも、「コカコーラが島を開設した」というニュースで取り上げたことがあったのですが、2003年から続いているサービスです。この世界で、被験者には調査であるということを明かさずに実験が行われたとのこと。内容はこんな感じ:

  • 「最初は小さなお願いから初めて、徐々に要求をエスカレートさせる」というパターン(FITD、"foot-in-the-door")と、「最初に無理なお願いをして、断られたら簡単なお願いに変える」というパターン(DITF、"door-in-the-face")の2つを様々な被験者に対して実施。
  • さらに肌の色が黒いアバターを用意し、同じように FITD と DITF を被験者に対して実施。
  • その結果、FITD ではアバターの変化による影響は見られなかったが、DITF の場合、肌の黒いアバターを使うと「簡単なお願い」を聞いてもらえる率が下がった(肌の白いアバターで20%、黒いアバターだと8%)。

とのこと。この結果について、以下のような解説がされています:

According to the researchers, skin colour had no effect on FITD experiments because the elicited psychological effect is related to how a person views himself or herself, and not others.

However, the DITF technique is said to reflect a psychological tendency to reciprocate the requester's ‘concession’ from a relatively unreasonable request to a more moderate request, and thus is affected by whether the requester is deemed worthy of impressing.

研究者らによれば、肌の色が FITD に影響しない理由は、FITD が引き起こす心理が「自分をどう見るか」に関係し、「他人をどう見るか」には関係ないからだそうである。

しかし DITF テクニックの場合、お願いをしてきた側が「譲歩」した程度に応じて(つまり無茶な要求がどこまで簡単なものになるかによって)反応を返そうという心理が働くため、依頼者の印象が影響するのである。

とのこと。実際、DITF で「人種による結果の変化」が生じるのは現実世界でも同じだそうで、バーチャルになったからといって驚くべきことではないのかもしれません。逆に言えば、それだけ仮想世界が現実世界に近いのだ、と捉えることができるでしょうか?

当然のことですが、私たちは「これは仮想世界だ」と分かって仮想世界にアクセスします。論理的に考えれば、他人のアバターを目の前にしたときも、「これは単に仮想世界での姿であって、現実の相手は全く違う姿かもしれない」と理解して行動する、と考えられるでしょう。しかし実際は、アバターの肌の色が違うだけで上記のような変化が生じる――つまり見かけの姿に思考を左右されてしまうわけですね。もしかしたら、「アバターは相手の実物の姿に模して作られるのが一般的」という思い込みがあるのが原因かもしれませんが、いずれにしても非論理的な行動であることは違いないでしょう。

教訓。「アバターといえども、できるだけ他人に気に入られるような姿にしておいた方が得になる」――ではないですね。たとえ仮想世界の中だけであっても、差別のない社会が生まれてくれると良いのですが。ただ逆に、あえて実社会で差別を受ける人々を模したアバターにして、人々からどんな反応を受けるかを体験してみるという「教育効果」は考えられるかもしれません。

ちなみに上の実験で出てきた「FITD」と「DITF」という2つのテクニックについては、古典ですが以下の本が非常に参考になりますので、ご興味のある方はどうぞ:

アキヒト

« 2008年9月11日

2008年9月12日の投稿

2008年9月14日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
akihito
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ