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仮想世界と人種差別

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はてブでお気に入り登録している方のブックマークから知ったのですが、バーチャルワールドでも人種差別が見られるという調査結果が発表されたそうです:

Researchers find racial bias in virtual worlds (iTnews Australia)

調査対象となったのは"There"というバーチャル世界。個人ブログの方でも、「コカコーラが島を開設した」というニュースで取り上げたことがあったのですが、2003年から続いているサービスです。この世界で、被験者には調査であるということを明かさずに実験が行われたとのこと。内容はこんな感じ:

  • 「最初は小さなお願いから初めて、徐々に要求をエスカレートさせる」というパターン(FITD、"foot-in-the-door")と、「最初に無理なお願いをして、断られたら簡単なお願いに変える」というパターン(DITF、"door-in-the-face")の2つを様々な被験者に対して実施。
  • さらに肌の色が黒いアバターを用意し、同じように FITD と DITF を被験者に対して実施。
  • その結果、FITD ではアバターの変化による影響は見られなかったが、DITF の場合、肌の黒いアバターを使うと「簡単なお願い」を聞いてもらえる率が下がった(肌の白いアバターで20%、黒いアバターだと8%)。

とのこと。この結果について、以下のような解説がされています:

According to the researchers, skin colour had no effect on FITD experiments because the elicited psychological effect is related to how a person views himself or herself, and not others.

However, the DITF technique is said to reflect a psychological tendency to reciprocate the requester's ‘concession’ from a relatively unreasonable request to a more moderate request, and thus is affected by whether the requester is deemed worthy of impressing.

研究者らによれば、肌の色が FITD に影響しない理由は、FITD が引き起こす心理が「自分をどう見るか」に関係し、「他人をどう見るか」には関係ないからだそうである。

しかし DITF テクニックの場合、お願いをしてきた側が「譲歩」した程度に応じて(つまり無茶な要求がどこまで簡単なものになるかによって)反応を返そうという心理が働くため、依頼者の印象が影響するのである。

とのこと。実際、DITF で「人種による結果の変化」が生じるのは現実世界でも同じだそうで、バーチャルになったからといって驚くべきことではないのかもしれません。逆に言えば、それだけ仮想世界が現実世界に近いのだ、と捉えることができるでしょうか?

当然のことですが、私たちは「これは仮想世界だ」と分かって仮想世界にアクセスします。論理的に考えれば、他人のアバターを目の前にしたときも、「これは単に仮想世界での姿であって、現実の相手は全く違う姿かもしれない」と理解して行動する、と考えられるでしょう。しかし実際は、アバターの肌の色が違うだけで上記のような変化が生じる――つまり見かけの姿に思考を左右されてしまうわけですね。もしかしたら、「アバターは相手の実物の姿に模して作られるのが一般的」という思い込みがあるのが原因かもしれませんが、いずれにしても非論理的な行動であることは違いないでしょう。

教訓。「アバターといえども、できるだけ他人に気に入られるような姿にしておいた方が得になる」――ではないですね。たとえ仮想世界の中だけであっても、差別のない社会が生まれてくれると良いのですが。ただ逆に、あえて実社会で差別を受ける人々を模したアバターにして、人々からどんな反応を受けるかを体験してみるという「教育効果」は考えられるかもしれません。

ちなみに上の実験で出てきた「FITD」と「DITF」という2つのテクニックについては、古典ですが以下の本が非常に参考になりますので、ご興味のある方はどうぞ:

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