シロクマ日報:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) シロクマ日報

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

« 2008年8月27日

2008年8月28日の投稿

2008年8月29日 »

インターネット先進ユーザーの会(MIAU)が行った、「Google ストリートビュー」の問題点を考えるシンポジウムの記事が公開されています:

「Googleストリートビュー」は何が問題か――MIAUがシンポ (ITmedia News)

ストリートビューに関しては、これまでネット上で様々な「問題点」が提示されていますが、シンポジウムでも様々な視点から議論が行われたようです。プライバシーに関する話から法律論、また「気持ち悪い」という感覚論まで、既出の意見が網羅されているという印象。ただそれだけに、「詰まるところ、何が問題なの?」という質問には答えられていない感じを受けました(あくまでも、この記事を読んでの個人的な感想です)。

例えば、いちばん白黒の決着がつきそうな法律論でも、

ストリートビューが社会的・法律的に受け入れられるかどうかについて壇さんは「まだコンセンサスがない」と話す。

 「例えば、根拠なしに人の家を盗撮するのは社会的にも法律的にもアウトだが、犯罪行為を行っている人を見つけて証拠保全するための撮影はOK―― という基準になっている。だがストリートビューは機械的に撮っており悪意はない。何の意図もないものについて、どうするかのコンセンサスは、おそらくない」(壇さん)

 民事訴訟でどうなるかは「撮影されることによる被る不利益と、撮影によって起きるいいことの比較衡量で決まる」という。似た例としては、写真週刊誌の記事がプライバシー侵害で問題になることもあるが、「一定の主観的な編集方針が問題になることが多く、ストリートビューは無機質に全部とらえるという点で異なる」と壇さんは話す。

とのこと。白とは言えないが黒に含めるわけにもいかない、いわゆるグレーゾーンにあるという印象を受けます。また恥ずかしながら、既に日本にはストリートビューに似たサービスが存在していたそうなのですが、

ストリートビューに似たサービスは日本にもすでにある。「Location View」が代表例だ。運営するロケーションビューから話を聞いた中川さんによると、スタートから2年経ったが、同社には苦情は1件も来ていないという。

 人の顔や車のナンバーを自動認識技術でぼかしているGoogleと異なり、ロケーションビューでは目視で削除しているという。こういった“日本的な細かい気配り”が問題を回避しているのでは、と中川さんは指摘する。

とのことで、「じゃあ『日本的な細かい気配り』ができれば問題なくなるのだとして、『日本的な気配り』って何だろう?」とますます訳が分からなくなってきます。

仮に「公道で写真を撮り、ネットで不特定多数に公開することは是か非か」という点に法律上の答え、あるいは社会上の慣習といったものがあれば、当然ながら今回のような騒動は起きなかったでしょう。ダメならダメ、許されるなら許されるで、激しい議論には発展しなかったはずです。しかし実際には、(ロケーションビューさんには申し訳ないですが)Google のような巨大企業が、力業であらゆる道路を撮影、ネットにアップするということがこんなに早く起きるとは誰も思わず、何の法整備・社会的合意の形成も行われていませんでした。つまり問題の一端は、Google が私たちの予想を遙かに上回る速度で、先進的なサービスをリリースしている点にあるのではないでしょうか。

一部で「私道に立ち入って撮影した」など明らかにNGと思われる行動もあるものの、個人的には、Google ストリートビューには「社会を混乱させよう」といった類の悪意はないと考えます。しかし Google という企業が抱いている倫理観は、恐らく非常に先進的・異質なものであり、「これくらいは許されるだろう」という範疇がズレているのでしょう。それすらも悪だ、もっと「一般的」な認識に配慮すべきだ、という意見も当然あるでしょうが、一方で私たちの想像を超える技術・サービスを作り出すのも価値のある行動です。求められているのは、技術やサービスの発展を手がける人々と、その外側にある社会で、常に合意が確立されいるように努力することではないかと思います。

生命倫理学」という学問があります。生命に関する科学がすさまじいスピードで発展してしまい、社会的合意が得られる前に「クローン」などといった存在が現実のものになってしまっていることはご存知の通り。科学の進歩を妨げないようにしつつ、何が許容されるべきかという新しい倫理観を形成するのが「生命倫理学」の存在意義の1つだと理解していますが、ネットの分野にも「ネット倫理学」とでも呼ぶべき活動が求められているのではないでしょうか。そんな大仰な名前でなくても良いのかもしれませんが、個々の問題に気を取られていると、第2・第3の「Google ストリートビュー問題」が起きてしまうような気がします。

アキヒト

« 2008年8月27日

2008年8月28日の投稿

2008年8月29日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
akihito
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ