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再び Chris Anderson 氏の"The Long Tail"に関する話題で恐縮ですが、この本の中ではロングテール現象に欠かせない要素の1つとして「需要と供給を一致させる手段」の重要性が指摘されています。多様なモノ/サービスが供給されればロングテール現象が起きるのではなくて、その中から自分の理想にピッタリの一品を探すことができなかればならない、という内容です。考えてみればこれは当然のことで、アイスクリーム屋に入っていきなり「300種類のフレーバーの中からお好きなものをお選び下さい」と言われても、「う~ん・・・じゃあバニラ(もしくはチョコ、ストロベリーなどありきたりなもの)でいいや」となってしまうでしょう(これは実験でも証明されていることが同書で解説されています)。「味の好みで選ぶ」「カロリーで選ぶ」など様々な選択基準があって初めて、自分に合ったフレーバー(ニッチな存在)を選ぶことができる、すなわちロングテール現象が生まれるわけです。

先日、これを実感するような体験をしました。妻と一緒にショッピングモールに出かけたところ、石鹸や洗顔料などのスキンケア関連商品を専門に扱うお店を発見。自宅の近くにも支店があるお店だったので、珍しいわけではなかったのですが、たまたま時間があったので覗いてみることに。棚には何十種類もの商品が置かれていて、色とりどりで鮮やかな店内です。また個々の商品には独自の香りが付けられているので、店内全体が甘い香りに包まれています。特に何か買おうとしていたわけではないので、お店を一周してから何も買わずに出てきました。しかしこの通り色と香りで賑やかな店内なので、さぞかし女性には楽しいのだろう・・・と思いきや、外に出たところで妻が一言。「このお店って、商品がありすぎて何だかよく分からないのよね」。

そう言われてみると、確かに膨大な種類の商品が並べられていました。さらにこのお店の場合、個々の商品に「ドリーマー」「セクシーダイナマイト」「浮世絵」などといったイメージ先行型の名前を付けているので、説明を読まないとどんな商品なのか全く分かりません。またその説明を読んでも、「キラキラ輝くルックスに仕上げてくれる」「あなたをピカピカに輝かせる」など似たようなものが多く、「コレとコレは色・香り以外に何が違うの?」と疑問に感じてしまいます(つまり好きな色と香りで選べということかもしれませんが)。要は選択肢と商品情報が与えられているだけで、「どう選ぶか」という点は消費者に任されてしまっているわけです。

しかしこのお店、全国にいくつもの支店があります。どうして上手くいっているんだろう?と疑問に思ったのですが、妻が次に発した言葉を聞いて、少し納得:

「それに店員さんがしつこく話しかけてくるから、落ち着いて見ていられないのよね」。

つまりこのお店では、店員さんがレコメンデーションを与える存在になっていて、来店したお客を巧みに誘導しているわけです。「しつこく」というのは主観的な問題ですが、お店の側も選択基準の欠落を理解して、積極的に来店者に話しかけるように指示しているのかもしれません。仮に「お客様に応じて最適な選択基準を提供すること」という店員教育をしているのだとすれば、店員が「人力レコメンデーション機能」となることはむしろ優れた戦略だと言うこともできるでしょう。

ただし、残念ながら人間は一種類だけではありません。うちの奥さんのように、店員さんから話しかけられることを嫌う人種も存在しています。そのような人々に対しては、このお店はせっかくの売り込みチャンスを逃してしまっていると言えるでしょう。選択基準が用意されているのかどうかは分かりませんが、少なくともそれが誰の目にも見える状態にはなっていないわけです。例えば「肌質で選ぶ」「効果で選ぶ」のようなガイドが小冊子になっていたり、店内のPOPで簡単に解説されていれば、「静かに買い物したい」という人々からも売上を得ることが可能になるのではないでしょうか。

Chris Anderson 氏の教えに従って、商品の種類を限りなく増やした、その中から好みの一品を選べるような仕組みも用意した。さあこれでロングテール型の売上増が見込める・・・とそう簡単にはいかないようです。「需要と供給を一致させる仕組み」を消費者が簡単に使えるようになっていたり、1種類ではなく数種類の仕組みを用意しておかないと、結局「数が多いだけで逆に選べない」という事態になってしまいます。逆にその仕組みさえしっかりしていれば、商品の種類を多くするよりもロングテール効果が期待できるかもしれません。

実は前述のお店を出るとき、奥さんは買い物しなかったのですが、僕は1つだけ買い物をしました。それは「アトピーに効く石鹸」。このお店は「女性向けのスキンケア製品を売る」というイメージが強く、化粧品の類しか置いていないのかなと思っていたので、「アトピーに良い製品ってあります?」と尋ねた時に答えが返ってくるとは思いませんでした。購入した石鹸が実際に効くかどうかは分かりませんが、少なくとも「アトピーに良い」という選択基準で選べるように(店員を通じて)なっていたわけです。僕はたまたま尋ねたので良かったですが、こんなもったいない事例が、実はもっと隠れているのかもしれませんね。

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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