なぜ米国企業はゼロトラスト導入で「大手SIer」を使わないのか?調査でわかった日米のITの構造的な違い
日本でジョン・キンダーバーグの【ゼロトラスト思想】に基づくゼロトラストアーキテクチャを本格的に導入しようとすると、手がけたSIerの絶対数が圧倒的に少ないため、消去法的にインドのAWAインテグレーター最大手(彼らは国際的な最大手です)であり、Amazon AWSからも公式に最大手AWSインテグレーターとして認められているTSC、Infosys、WiproなどのAWSに頭抜けて強いプレイヤーに依頼しないと、まず導入が進みません。色んな調査をかけてわかった事実です。
AWSが公式に配布している以下のようなゼロトラストアーキテクチャ導入に関するステップを踏んで、取り組むことができる日本のSIerはまずないと踏んでいます。誤認があったら申し訳ありません。何らかの形でご指摘いただければ幸いです。
AWS: Zero trust on AWS
https://aws.amazon.com/jp/security/zero-trust/
AWS: AWS Prescriptive Guidance
日本ではジョン・キンダーバーグのゼロトラスト思想ですら、その本質を捉えて普及啓蒙にあたってきたのは、NRIセキュアぐらいですから、ゼロトラスが何か?すら理解されていません。米国とは情報の壁、英語の壁が存在しています。
NRIセキュア:ゼロトラストは誤解だらけ?キンダーバーグ氏が語るその本質とは(2024年7月)
ジョン・キンダーバーグのゼロトラスト思想に基づく、米国政府が推奨しているゼロトラストアーキテクチャを日本の大企業に導入させることができる国内のSIerは存在しない。そこで消去法的にインドの最大手AWSインテグレータ=世界最大手のAWSインテグレータに依頼せざるを得ないということになります。
これが米国に目を転じると全く違う状況があることが、本格的に調査をすることでわかってきました。
以下のnoteに1万3,000字の調査報告書本体を上げました。興味がある方はお読み下さい。
なぜ米国のゼロトラストはランサムウェアを防げるのか?日本企業の「なんちゃって導入」との決定的な差:日米の差異に関する調査報告書
さて。以下はこの長大な報告書の中から、日米の差がどうなっているのかを論じたチャプターをブログとして書き直したテキストです。これもまた「うーん」と唸らざるを得ない現実を伝えています。
情シスの予算では実現不可能。経営企画部主導で進める
「本家本元」のゼロトラスト導入セミナー
米国政府が推奨するジョン・キンダーバーグのゼロトラスト思想。それはツール導入ではなく、従来の3倍〜5倍の予算を要する「経営戦略」そのものです。
なぜ経営企画部が主導すべきなのか?その本質を解説します。
なぜ米国企業はゼロトラスト導入で「大手SIer」を使わないのか?:構築から構成へのパラダイムシフト
日本企業が大規模なインフラ刷新を行う際、当然のように「大手SIer(GSI)」への依頼が前提となります
なぜ米国ではGSI不在の導入が進むのか。その背景にある「構築(Build)から構成(Configure)へ」というパラダイムシフトについて解説します。
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インフラの消滅と「構築」の終焉
かつてのセキュリティインフラ(ファイアウォールやMPLS回線)は、物理的な設置と複雑な設定を要したため、GSIによる労働集約的な支援が不可欠でした
・物理構築の消滅:アプライアンスをデータセンターに設置する必要はなく、トラフィックの宛先をクラウドに向ける作業(GREトンネルやPACファイル設定)だけで済みます
・APIによる連携:従来SIerがスクリプトを書いて行っていた異機種間連携は、今やAPIで標準化されています
つまり、GSIによる「つなぎ込み開発」の需要自体が激減しているのです
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「内製インテグレータ」としてのIT部門
米国企業では、IT部門がコストセンターではなく競争力の源泉とみなされており、高度なスキルを持つエンジニアが直接雇用されています
ゼロトラストの本質は「誰が・いつ・何にアクセスできるか」というポリシー定義にあります
例えば、サウスルイジアナコミュニティカレッジ(SLCC)の事例では、ランサムウェア被害からの復旧とゼロトラスト化を、GSIに依存せず、ITディレクターであるNick Pitre氏を中心とした少数の内製チームが主導しました
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経営者向けレポート: 米国における国を挙げたゼロトラストアーキテクチャの導入、事例とその成果及び非導入事例の場合
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餅は餅屋:「ブティック型」と「ベンダーエコシステム」
では、専門的な支援が必要な場合はどうするのでしょうか。米国では巨大なGSIではなく、「ブティック(専門特化)型」パートナーが選好されます
・専門特化型パートナー:例えばCrowdStrike導入において、Quzaraのような企業は、労働力ではなく「コンプライアンス(FedRAMP)への専門知」を提供し、短期間でプロジェクトを完遂させます
・ベンダーエコシステム:ZscalerなどはMicrosoftやAWSとの事前検証済み統合を提供しており、顧客は「ベストプラクティス構成」をそのまま適用可能です
日本とは全く異なる米国企業のIT
米国におけるゼロトラスト導入は、GSIへの「丸投げ」ではなく、以下のハイブリッドモデルで実行されています
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内製チームによる戦略立案
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SaaSベンダーの機能活用
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必要に応じた専門パートナーの支援
「システムはSIerに作ってもらうもの」という常識がない...という、全く異なるITカルチャーが米国にはあります。