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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

企業で求められるアプリケーション戦略

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生成AIやクラウドの普及でシステム開発のスピードが加速するなか、日本企業ではアプリケーションが乱立し、その全体像を把握できないままコストとリスクが膨張するケースが増えています。

経営戦略と足並みを揃えたアプリケーション戦略を持たなければ、デジタル投資は事業価値に結び付きません。

今回はGartnerが2025年5月12日に発表した見解をもとに、アプリケーション戦略の背景や概要、課題や今後の展望などについて取り上げたいと思います。

Gartner、アプリケーション戦略の策定が日本企業にとって喫緊の課題であるとの見解を発表

調査が映し出す「戦略欠如」の実態

Gartnerが従業員1,000人以上の国内企業を対象に行った調査では、アプリケーション導入によるビジネス成果を得られている企業と、そうでない企業の差が鮮明になっています。

前者は経営層がITを組織の中心に据え、IT部門はユーザー部門やベンダーと信頼関係を築いています。経営計画を深く理解し、システム選定や投資判断に反映させているため、導入後の効果測定でも高評価を獲得しています。

一方、成果が乏しい企業では、IT部門が「運用コストの管理者」にとどまり、経営戦略とシステム投資が分断されているといいます。

ステップ1──戦略原則で「判断の軸」を定める

アプリケーション戦略の起点は、組織が大切にする価値を明文化した戦略原則を設けることです。アジリティを優先するのか、コスト最適化を追求するのか、あるいはガバナンス強化を重んじるのか。利害や価値観が異なるステークホルダー間で意思決定を円滑にするためには、重視するKPIと受け入れるトレードオフを明確にする必要があります。

ステップ2──TIMEフレームワークで「健康診断」

次に求められるのが、既存アプリケーションの健全性評価です。GartnerはTIMEフレームワーク――Tolerate(許容)、Invest(投資)、Migrate(移行)、Eliminate(廃棄)――を用いてビジネス価値、技術的適合度、維持コストを多面的に測定する手法を推奨しています。

IT部門だけで評価を行うと導入部門の実態を見誤りがちです。ユーザー部門を巻き込み、用途や将来性を議論しながら優先順位を定めることで、短期的なコスト圧縮と中長期の競争力強化を両立につながります。

ステップ3──ビジネス・ケイパビリティの仕分け

戦略をさらに具体化するうえで鍵となるのが、ビジネス・ケイパビリティを3層に分類する「ペース・レイヤ・アプリケーション戦略」です。

図が示すように、革新的な価値を創出する「革新システム」、差別化を支える「差別化システム」、取引記録を安定的に処理する「記録システム」に分け、変化の速さと貢献度に応じて投資配分を最適化します。

重要なのは、「いま競争優位を生むか」ではなく「未来の競争優位を形成し得るか」という視点で議論することです。こうしたメリハリの利いた仕分けが、迅速なイノベーションと堅牢な基盤整備の両立を可能にします。

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出典:Gartner 2025.5

ステップ4──誰もが理解できる"一枚戦略"の作成

戦略は詳細な設計書ではなく、共通認識を生むコミュニケーション・ツールです。

Gartnerは「スライド1ページ」で全体像を示すシンプルさを勧めています。キーメッセージを絞り込み、経営層が短時間で判断できる形に落とし込むことで、合意形成と修正サイクルが高速化します。また、クラウドサービスや組み込みAIの拡大でポートフォリオが複雑化する今こそ、簡潔で力強い戦略が組織の羅針盤へとつながります・

今後の展望

クラウド・ネイティブ、生成AI、ハイパーオートメーションといった技術潮流は、アプリケーションのライフサイクルをこれまで以上に短縮し、再設計の頻度を高めるでしょう。

IT部門には、ビジネス戦略を起点にアプリケーションを迅速に立ち上げ、不要になれば躊躇なく置き換える"動的ポートフォリオ運営"が求められています。

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