AIが仕事を奪うのではなく、AIを「使いこなす人」が「そうでない人」の仕事を奪う
「AIが人間の仕事を奪うのではないか」という議論をよく耳にします。しかし、本質は少し異なります。より正確に言えば、「AIを使いこなせる人が、AIを使いこなせない人の仕事を奪う」のです。
例えば、Excelの登場を考えてみましょう。かつて、計算は電卓で行い、作表は定規を使って手書きしていた時代がありました。そこにExcelが登場し、瞬く間に計算から作表、グラフ作成までこなせるようになりました。変更や修正にも即座に対応できます。さて、あなたが仕事を依頼するなら、電卓と手書きで時間をかけて作業する人と、Excelを駆使して迅速かつ正確に仕上げてくれる人、どちらを選ぶでしょうか。当然、後者でしょう。結果として、Excelを使いこなせない人の仕事は、Excelを使いこなせる人に取って代わられました。
プログラミングにおける生産性の格差と淘汰の可能性
プログラミングの世界も同様です。AI駆動開発ツールが広く普及しつつある今、これらのツールを使いこなせるエンジニアと、そうでないエンジニアの間には、生産性に大きな差が生まれます。当然、企業はより短納期で、コストも安く、変更や修正にも柔軟に対応できるAI駆動開発を使いこなせるエンジニアや、そのような体制を整備している企業に仕事を依頼するようになるでしょう。
AI技術の発展は目覚ましく、システム開発における生産性は今後も飛躍的に向上していくと考えられます。そうなれば、人間が一行一行コードを書くという従来の「作業」は、将来的には大幅に減少する、あるいは一部では不要になるかもしれません。しかし、だからといってエンジニアの仕事がなくなるわけではありません。むしろ、エンジニアの仕事の本質が変化し、より高度な領域へとシフトしていきます。
CADの教訓:技術革新はプロセス全体の変革とイノベーションを促す
かつてCADシステムが登場したときのことを思い出してみましょう。それまで製図板で設計図を書いていたベテランのエンジニアたちの中には、「CADを使うと、手で図面を引くことで培われる設計のノウハウが身につかなくなるのではないか」といった懸念の声がありました。しかし、結果としてどうなったでしょうか。
CADの普及は、設計業務の生産性を劇的に向上させました。それだけではありません。開発期間の大幅な短縮、解析システムとの連携(CAE)による試験工程の高度化・効率化、NC工作機械や産業用ロボットとの連携(CAM)による設計から製造へのシームレスかつ短時間での連動、さらには3D CADを基盤とした意匠設計の自由度向上やMBD(モデルベース開発)といった手法によるイノベーションと開発期間のさらなる短縮も可能になりました。つまり、CADは単に既存の製図作業を効率化しただけでなく、企画から設計、解析、製造に至るプロセス全体を根本から変革し、効率化の先にあるイノベーションにも大きく貢献したのです。
AI時代のエンジニアに求められる新たな役割とスキル
AIによるシステム開発も、これと軌を一にすると考えられます。自動車の製造プロセスを例にとっても、現代の自動車工場では数多くのロボットが導入され、製造工程の大部分が自動化されています。かつて人間が行っていた作業の多くはロボットに置き換わりました。しかし、「どんな自動車が魅力的で市場に受け入れられるのか」という企画、「どのような製造工程を構築すればコストを抑えつつ生産性を向上できるのか」という設計、「より高い品質を実現しつつコストを下げるにはどうすればよいか」という品質管理、そして「さらなる改善点はないか」といった継続的な改善活動は、依然として人間の重要な役割です。
システム開発も同様であり、AIがコーディングの大部分を担うようになったとしても、例えば、ユーザーの抱える本質的な課題やニーズを深く洞察し、それを具体的なシステム要件に落とし込む共感力と定義力、あるいは、複雑なステークホルダー間の利害を調整し、プロジェクトを円滑に推進するコミュニケーション能力と交渉力、さらには、倫理的な観点や社会的な影響を考慮し、公平で持続可能なシステムを設計する高い倫理観と先見性といった、AIには真似のできない、あるいは人間にこそ価値が求められる本質的な領域は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
AIを「道具」として使いこなし、新たな価値を創造する
AIによって単純作業から解放されることで、エンジニアはこれらのよりクリエイティブで本質的な業務に多くの意識と時間を傾けられるようになり、結果として、より質の高いシステムやサービスを生み出すことができるようになるはずです。
重要なのは、この変化に適応し、AIを使いこなし、新たな価値を生み出すスキルを身につけることです。この変化の波に乗りこなせないエンジニアは、残念ながら淘汰されてしまう可能性も否定できません。AIによるシステム開発は、単に既存のプロセスを効率化するだけでなく、開発プロセスそのものを、単なる効率化を超えて、より最適化され洗練された新しい次元へと「シンカ(進化・深化)」させることになるでしょう。
プログラミングの負担が軽減され、仕様変更にも迅速に対応できるようになれば、ITを前提としたビジネス改革や、これまでにない新しいビジネスモデルの開発を、より一層スピーディーに推し進めることも可能になります。
AIは脅威ではなく、進化を促す触媒
AIを人間の仕事を奪う脅威として捉えるのではなく、電卓やExcel、そしてCADのように、人間がより高度な作業に集中するための便利な「道具」として捉え、積極的に使いこなしていく。そのような発想の転換と、変化への適応力、そしてAIを積極的に活用する姿勢こそが、これからの時代を生き抜き、新たな価値を創造していく役割を担えるのではないでしょうか。
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