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中小企業デジタル化・DXの現状と課題

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日本の中小企業は国内企業数の99%以上を占め、雇用の約7割を支えています。そのため地域経済を支える担い手として期待が大きい一方、近年は円安・物価高や人手不足など厳しい経営環境に直面しています​。

こうした状況下で競争力を維持し成長していくには、デジタル技術の活用による生産性向上が欠かせません。COVID-19のパンデミックを契機に中小企業でも業務のオンライン化やDXへの注目が高まり、多くの企業がデジタル化に踏み出し始めました。しかしその一方で、リソース不足やノウハウ不足からデジタル化が進まず、競争力低下のリスクを抱える企業も存在します​。

今回は2025年4月に中小企業庁が発表した2025年版『中小企業白書・小規模企業白書』の資料をもとに、中小企業のデジタル化・DXの背景や現状、今後の展望について取り上げたいと思います。

中小企業にデジタル化が求められる背景

中小企業のデジタル化は以前から日本経済の課題とされてきました。大企業に比べIT投資や人材の面で余裕が少ない中小企業は、業務効率化や生産性向上につながるデジタル技術の導入が遅れがちでした。例えば紙中心の事務作業や対面営業が長く続き、IT化やオンライン化への踏み出しに慎重な企業も少なくはありませんでした。

しかし、ここ数年で事業環境が大きく変化し、デジタルトランスフォーメーション(DX)への期待が高まりました。2020年からのコロナ禍では、テレワークやEC(電子商取引)などデジタル技術を活用した新しい働き方・ビジネスモデルが急速に広がり、中小企業にもデジタル化の必要性が強く認識されるようになりました。

政府も「DX」の旗印の下でIT導入補助金など中小企業支援策を講じ、デジタル化を後押ししています。

中小企業のデジタル化の現状

足元では、中小企業のデジタル化は着実に進みつつあります。2025年版中小企業白書によると、労働生産性の向上が期待できるデジタル化に多くの中小企業・小規模事業者が取り組んでおり、直近で大きく進展しているといいます。

実際、調査では全くデジタル化に着手していない企業の割合が2023年時点の30.8%から2024年には12.5%まで減少しており​、この短期間で大幅な改善が見られました。その結果、およそ9割近い企業が何らかのデジタル技術を業務に取り入れている計算になります。

出典:2025年版『中小企業白書・小規模企業白書』 2025.4

多くの中小企業はまず帳簿管理や在庫管理のソフト導入、現場業務の一部自動化、オンライン商談への移行など、身近な業務のデジタル化から着手しています。こうした基礎的なIT活用の段階を経て、データ分析による業務改善やマーケティング高度化などDXの深化に取り組む企業も増え始めています。

とはいえ、デジタル技術でビジネスモデル自体を変革し競争力強化まで実現している企業はまだ一部にとどまり、真の意味でのDXを果たした中小企業は限られているのが現状です。

中小企業のデジタル化における課題

デジタル化の進展と裏腹に、中小企業ならではの問題も見えてきます。まず、一部の企業では依然としてデジタル化に着手できていません​。また、中小企業全体としてデジタル分野への投資も控えめで、実際、中小企業の設備投資に占めるソフトウェア投資比率は7%程度と大企業(約13%)の半分程度にとどまっています​。

出典:2025年版『中小企業白書・小規模企業白書』 2025.4

DX推進には人材不足も大きな障害です。高度IT人材の獲得競争は激しく、中小企業では自社での育成も外部からの採用も容易ではありません​。その結果、ITツールを導入しても使いこなせず、十分な効果を引き出せない例も少なくありません。 経営体制の問題も指摘できます。経営者に権限と知識が集中しがちな中小企業では、トップが消極的だとDXが進みません。

白書でも、経営者以外の人材に権限委譲して「一人経営」体制の打破が重要と強調されています​。 これらの課題を放置すれば大企業との生産性格差が拡大し、中小企業が競争力を失って人材や取引先を失う恐れがあります。

今後の展望

中小企業が今後も持続的に発展していくには、デジタル化・DXをさらに加速させていくことが不可欠となります。本白書でも、デジタル化への取り組みを着実に進めていく必要性が強調されています​。

今後は国や支援機関による専門家派遣や補助金などの支援策が充実し、中小企業がDXに挑戦しやすい環境が整備されていくでしょう。また、中小企業自身も社内人材のデジタルスキル向上に力を入れていくことが重要となるでしょう。

DXは単なる技術導入ではなく、業務フローやビジネスモデルの変革を伴うため、小さく始めて段階的に進めていく姿勢が求められます。

DXの推進は中小企業に大きなチャンスをもたらします。デジタル技術を活用すれば、地理的制約を超えて販路を拡大し、省力化によって人手不足を補うことも可能です。すでにデジタル化によって生産性向上や競争力強化を果たした企業も現れ始めています。DXにより付加価値を高め、人材定着の好循環を生み出せれば、中小企業の持続的成長にもつながっていくのかもしれません。

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