日本企業が創るインフラストラクチャ・アズ・ア・サービス
日本企業が注力しているスマートシティおよびスマートコミュニティは、海外のインフラ事業の世界では、政府が民間企業にコンセッション(事業権)を与えて20年といった年限の営業を認める、いわゆるインフラPPPの対象にはなっていません。
インフラPPPの対象は、鉄道、発電、有料道路、空港、港湾、上水道、下水道、ごみ処理といったものが主で、いわば既存のインフラです。こうしたインフラ設備は、新興国を含む世界各国で膨大な新設需要がある一方で、各案件とも多額の初期投資を必要とすることから、財政余力のない国では民間資本を当て込み、PPP(官民連携)という形でプロジェクトを実現します。
世界ではこうしたインフラに対して年間1兆ドルの設備投資が行われているとされ(モルガンスタンレーによる)、うち少なく見積もっても2割程度はPPPによって行われていると思われます。新興諸国ではその比率は高まる傾向があり、インドでは、おそらくはインフラ整備の3〜4割程度(5年で1,000〜2,000億ドル規模)がPPPによって行われていると見られます。
世界各国の政府が取り組んでいるインフラPPPを、民間企業側の視点でビジネスモデルとして見れば、これは何かを「売る」事業ではなく、「サービス」で収益を得る事業です。もちろん、機器納入などの販売の売上も立つのですが、それにも増して大きいのが、政府から与えられたコンセッションに基づき、20年といった長期にわたって上がってくる収益です。これをわかりやすい例えで言うと、大型ホストコンピュータの売上が激減したIBMがルイス・ガースナーをCEOに招聘し、「サービスのIBM」として収益基盤を建て直した。それによってハードウェア販売収入よりもサービス販売収入が著しく増えた。それに近いものがあります。
日本でスマートシティ/スマートコミュニティに取り組む企業は、その「IBM式」を目指す必要があるのではないでしょうか。現在、世界を見渡せば、このスマートシティ/スマートコミュニティ市場に本気で取り組んでいる有力企業は米国のゼネラルエレクトリック(GE)とドイツのシーメンスしかありません。GEもシーメンスも、未だ「IBM式」の収益モデルを確立するには至っておらず(GEについてはそれに近い事業活動がありますが、詳細は別な機会に譲ります)、まだ機器や設備の販売に重きを置いています。
ここが日本企業の狙い目です。
消費者が生活する居住空間を携帯端末のような「プラットフォーム」と見なし、そこに対して、居住サービス、電力、ガス、通信、上水道、下水道、省エネ、創エネ、交通(EVによるカーシェアリングなど)、ヘルス、といったサービスを複合的に提供していく。それを可能にするインフラとして、集合住宅、再生可能エネルギー発電、エネルギー需給管理システム、ブロードバンドインフラ、上水道および下水道に関するインフラ、EV充電設備、カーシェアリング、ヘルスケア用ネットワーク等々をパッケージにしたものを建設する。いわば居住者に対して、生活インフラをサービスとして提供する体制の実現です。そうしたパッケージを早期に確立できれば、GEやシーメンスに対する優位性は決定的になると思います。
もっとも、このパッケージができあがっただけでは、商品が完成しただけにすぎず、売り先を開拓しなければなりません。
外国の政府が、こうした居住パッケージをインフラ案件としてコンセッションの対象にするには、政府の担当官僚がその優れた特性を知り、評価し、具体的なインフラ案件として設定しなければなりません。
一般的に、コンセッション方式のインフラPPPは、政府内部で立案され、競争入札にかけられます。案件は、政府の中から出てくるものであって、未だ存在しない案件に民間企業が入札することはできません。その図式の中へ、前例のなかった居住パッケージをどう組み入れるか?
そこで参考になるのが、インフラ事業の世界で行われている"Unsolicited Proposal"という提案スタイルです。"Unsolicited Proposal"には、政府側から見て「要請しないのに民間企業が持ってくる提案」というニュアンスがあります。すなわち、正式な競争入札案件のルートではなく、その横から、ダイレクトに官僚にアクセスし、提案を説明して検討してもらうという形式を指します。国によって、Unsolicited Proposalをしっかりと取り扱ってくれるところと、非公式な提案ということでまともに取り合わないところがあるようですが、それでもやらないよりはやった方がましです。それで大きな案件が動く可能性があるわけですから。
日本企業の優位性は依然として高く、スマートシティ分野の居住パッケージを実現する力もあると思います。それがUnsolicited Proposalによってインフラ案件として動くようになり、いわば「インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス」として展開できるようになれば、その恩恵は計り知れないと思います。