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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

書籍メモ:「『自分ごと』だと人は動く」博報堂DYグループ エンゲージメント研究会著

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この書籍はTwitterで@76whizkidzさんがリンク先のようにつぶやいていたのがたまたま目に入って知りました。読んだ本の内容をメモすることは、知見の共有という意味で大事ですね。

さて本書のテーマは「エンゲージメント」です。弊ブログでも過去に何度かエンゲージメントには触れていて、以下の投稿があります。

メモ:「ストーリーテリング」と「エンゲージメント」(2007/3/19)

エンゲージメント/ストーリー/経験(2008/6/4)

A地点からB地点まで行くライブ(2008/8/11)

オトナグリコにみるエンゲージメントのフラクタル構造(2008/9/27)

以上4本のうち「エンゲージメントって何?」について比較的まとまっているのが A地点からB地点まで行くライブ ですね。エンゲージメントとは「エモーショナルな絆」だと書いています。エモーショナルな絆を顧客と取り結ぶためには、ストーリーが必要だ、というのが同投稿を書いた時点における自分の考え。このストーリーは「テーマ」と置き換えることもできます。

個人的にエンゲージメントはプロテスタントの国として出来上がった米国のエバンジェリズムと深い関係があると思っています。米文学の比較的初期の作品、例えばホーソーンの「緋文字」を読むと、国ができて間もない頃の東海岸の町において、どんな雰囲気(日本で言えば空気)のなかでエバンジェリストが活躍していたのかがよくわかります。また、宗教心理学の大家ウィリアム・ジェームズの「宗教的経験の諸相」(岩波文庫)を読むと、まさにプロテスタントのエバンジェリストが歴史浅い米国東海岸の街(ボストンなど)で、どういう振る舞いをしていたのかが記されています。エバンジェリズムはおそらく米国のものです。同様の宗教的行為は欧州にも伝統はあるにせよ。
その延長で考えると、米国のIT企業の中および外からなぜエバンジェリストなる人々が出てくるのかがよく理解できます。あのスタイルは彼らのカルチャーの中から自然に出てくるものなのです。(ということは日本でも日本の文化・歴史に根ざす同種の活動を祖型とすれば、同種のスタイルが成立つということに…?)

エバンジェリストは自分が述べ伝えるべきものがあり、それを述べ伝えていくなかで聴き手とのエモーショナルな絆を形作る。それがエンゲージメントである、という順序なのでしょう。エンゲージメントは単体で成立するものではなく、それに先立ってエバンジェリズム、すなわち、テーマなりストーリーなり主義信条がなければならない。これが2008年以降、断続的にこの周辺を考えてきて得られた現在の自分の考えです。

ちなみに私が日頃お世話になっているシスコシステムズのIBSGというビジネスコンサルティング部門では、顧客企業との関係づくりを「エンゲージメント」という言葉で表し、内容や手法を定義しています(コアの思想を提供したのは現在のCMO、マッキンゼー出身の方です)。2000年頃からです。2003年にリサーチャーの仕事を始めた当時、率直に言って「エンゲージメント」が何なのかよくわかりませんでした。個人的にはそこに端を発しています。
米国のコンサルティング業界および広告業界では、顧客との関係構築を「エンゲージメント」として捉える動きが1990年代後半に出てきたと認識しています。どちらかと言えばコンサル業界の方が先立ったようです。

というわけで、エンゲージメント。日本においてはまだまだ共通理解ができていません。そういう状況でエンゲージメントを主テーマに据えた「『自分ごと』だと人は動く」が出たわけで、これは一読に値します。

色々な知見が得られましたが、1つだけ挙げれば、エンゲージメントを成立させるためには「突っ込みどころ満載」であることが望ましいという指摘です。目からウロコでした。
どういうことか言うと、潜在顧客は企業が発信するメッセージをそのまま受け入れる状況にない。なぜなら世の中にはネットも含めて膨大な量のメッセージがあふれているから。そのなかで、顧客がメッセージを選び、自分の生活や考えに取り入れていくのは、自分に関係がある事柄(それを同書では「自分ごと」と読んでいます)。どうすれば、企業が潜在顧客にとっての「自分ごと」を提供できるか?それは、企業が突っ込みどころ満載の姿勢を取り、そうした場や機会を提供していくことによって。メッセージをいかに発信するかを考えるのではなく、突っ込まれる余地を作ることを考えるのが先。突っ込みどころ満載にし、突っ込まれたところで、顧客との関係づくりがスタートする。

 携帯電話・ソフトバンクのCMは、父親が犬として登場するなど、まさに激しい突っ込みどころをつくって成功した事例です。「おいおい、父親はイヌか!?」、多くの突っ込みを、全国各地のテレビの前で、みんなしたことでしょう(…違います?)。「どうなっているんだ」など、それなりのお叱り(型の突っ込み)もクライアントの元に寄せられたかもしれません。それでもすべては、そこから関係が始まっている。多少のノイズなどを気にしていたら、いまどきのコミュニケーションは成立しないのかもしれないぞと、いまでも考えさせられる成功事例だと思います。

ということなのです。興味のある方はぜひ買ってお読みになることをお勧めします。

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