議論のアマチュアが陥りやすい罠5つ、あるいは議論を「知的生産の場」にするために
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僕は議論を仕切るプロなので、「どうやったら良い議論をリードできるか」について関心がある。良い会議をリードできる人(ファシリテーター)をどう育成するかについてもずっと考えてきた。
でもリード以前に、議論をすること自体が下手だなぁと思う場面が多い。欧米と違って、学校で議論の訓練をしないせいだという意見もあるが、そう言っていても前進しない。常々思っている議論の罠について、まとめておく。
★罠1:議論を勝ち負けだと思う
大前提として、議論は勝ち負けを競うものではない。
・新しいアイディアを生むため
・方針を決め、それにそって行動するため
に議論をするのだ。
そういう意味では、勝ち負けを競うディベートや交渉は、(僕が考える)議論ではない。協調か対立かという意味では、議論とディベートはむしろ対極に位置する。
勝ち負けを競わないのだから、自分の意見の正しさを無理矢理主張する必要もないし、他人の意見の欠点をあげつらう必要もない。
「あなたはなぜ、そう思っているのですか?」と質問し、
「私はこういう理由で、この方法が優れていると思っています」と言えば良い。
そういう対話を繰り返すことで、どちらかの意見が正しいことがわかれば、それを議論の結論にすれば良い。折衷案が良いのならば(妥協の産物ではなくて、単に優れているという理由で)、それを採用すれば良い。
結論と「元々自分が思っていた意見」が同じなのか、全然違うものなのかは、この際どうでも良い。意見を変える事を恥ずかしいと思う必要は全くないのだ。
僕個人としては、元々考えていたことと、違う結論になった方が嬉しい。議論した甲斐があったのだから。
★罠2:ポジショントーク
勝ち負けがないのだから、「自分の立場として、押し通したい意見」をもって議論に臨むのは、おかしい。それをポジショントークと呼ぶ。
利害が相反する会社間で、互いの立場を主張しあうことはある。だがそれは議論ではなく、交渉である。交渉では力関係を反映した形で、落とし所を探ることになる。
でも、同じ会社内の部署Aと部署Bの間でポジショントークをやり合う、というのは議論以前の話としておかしい。利益を出す/雇用を確保するなど、目的ともにする共同体が会社なのだから。
「会社全体のため」という大義名分ではなく、自分の部署のために意見を主張するのならば、その議論に参加する資格がそもそもないのだ。
まあ、実際にはそういう方が沢山いますけれど。
★罠3:人と意見を分けられない
よりよい結論を目指して意見を交換しているはずなのに、それを個人に向けた非難だと感じる人は多い。面と向かって「非難しましたね」とは言わなくても、イヤな気分になる人はすごく多い。
対策としては、こちらとしても「人と意見は別物」という事に、充分気をつけることくらいだろうか。「選択肢A、選択肢B・・」と意見にラベルを張りながら議論をするのも、多少は人格と切り離す効果がある。
★罠4:納得しないと行動に移れない
違う立場、違う性格の人々が話し合うのだから、議論の結果「全員がスッキリ納得」という状態にもっていけない事も多い。
第1目標:全員がスッキリ納得
第2目標:納得はしていないが、結論に合意しているので、行動できる
議論では第1目標をいつも目指したい。そのための工夫もする。
だが、どうしても無理な時は第2目標を目指すことになる。「正直、私はB案の方がいいと思うけど、会社としてA案を目指すことには反対はしない。協力する」と、議論の参加者全員が思っている状態だ。この状態の事を「コンセンサス」と呼ぶ。
この「納得はしていないが、協力する」というのは大人でなければ出来ない。自分の感情に矛盾を抱えることになるからだ。そして、こういう大人な対応が出来ないケースがとても多い。「俺は納得していない」と後で言ったり、「納得しないから延々と反対する」という状態だ。
例え感情的に納得していなくても、会社として何かは意思決定しなければならない。そこから逃げるべきではない。意思決定しないでズルズルと引き伸ばすのは「決定を先延ばしする」ことを選択しているのだから。
だから「納得はしないが、決定は尊重する」という妥協点が重要なのだ。
★罠5:対話ができ、意見が出れば満足
僕らは普段、組織の意思決定のためにファシリテーションという技術を使っている。ビジネスなので「決めてナンボ」の世界だ。
だが、ファシリテーションという言葉は世間ではもっと広く使われていて、教育現場や地域活性化などの場面では「対話の活性化の手法」の色合いが強い。
みんなで集まって、色々話ができたら満足。得るものもあったね、というイメージだ。
言うまでもなく、対話の促進も大事だ。企業においても、風土改革の様な場面や、変革プロジェクトの立ちあげのような、モヤモヤした状況では、僕も意図的に「対話の促進」を目的とした場を作る。
でも、ビジネスではほとんどの場合、明確な結論を出し、それに基づいてみんなが行動を起こさなければ、議論する意味が無い。
・会議をしたら、結論を必ず書きだす
・結論に応じた「やることリスト」も作成する
・会議後、「やることリスト」が着実にこなされているかのチェックも必要
と常に言っているのも、同じ理由だ。
※これまで書いた、議論/会議についての記事をまとめておきます。
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Cambridge Seminar 2013 東京 のお知らせ
「成功するITプロジェクト ~プランニングから導入までのノウハウ教えます!~」
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6月26日(水) 19:00~21:00 プロジェクト・プランニング
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7月24日(水) 19:00~20:30 プロジェクト・ファシリテーション
■会場:
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