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あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

ちゃぶ台返しを防ぐ。あるいは非中立型ファシリテーション

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★えっ、ファシリテーターって中立なの?
「ファシリテーション」「ファシリテーター」という言葉はそろそろ市民権を得たと言って良いかと思う。大きな本屋に行けば、ちょっとしたファシリテーションコーナーまである。みんな会議の生産性の悪さにウンザリしているから、解決策を求めているんでしょうね。僕らもプロジェクトを一緒にやっているお客さまから「会議のやり方を教えて」と依頼されることも多い。

仕事柄、そういうファシリテーションの教科書的な本をたまに立ち読みする。実践的なテクニックなど、結構参考になることもある。でも1カ所、ずっと違和感を持ってきたことがある。
「ファシリテーターは中立の立場で、議論を整理し・・」
という部分だ。「ファシリテーションとは?」の定義文のなかではっきり「中立であること」と書かれている場合もある。

なぜ違和感があるかというと、僕自信のスタイルを振り返ると、全然中立的ではないから。ファシリテーター(僕)vs 他の参加者全員、という議論になることもあるくらいだ。特定の参加者の意見を、ファシリテーターである僕が支持することもある。
この部分を読んだ、ファシリテーション道を追求している方は「コイツはファシリテーターじゃない!」と思うかもね。僕は実戦でファシリテーションをたたき込まれ、磨いてきたから教科書と食い違っていても無理もないんだけど。

★普通、ファシリテーターは中立
一般的にファシリテーターに中立が求められるのは、「複数の立場、複数の組織から人々が会議に参加して議論すると、みなポジショントークをする」という前提があるからだろう。
ポジショントークというのは「経理部からプロジェクトの会議に参加するなら、経理部の代表として経理部が困らないように発言しないとね。経理部の仕事が増えちゃう話なら絶対反対しなくちゃ」ということ。
残念ながら、ほとんどの組織ではその前提は成り立つ。程度の差は大きいけれども。

そうなると、組織をまたいだ議論はニッチもサッチも結論を出せなくなってしまう。組織を背負っていると、後には引けないしね。
もちろんそれでは困るから、唯一ポジションにとらわれない参加者としてファシリテーターが前に立つことになる。中立だからこそ、他の参加者は進行を安心して任せられるし、ファシリテーターが出す合意案にも素直に乗りやすい。こういう仲裁役、合意形成役としての中立性は僕も大事だと思う。

僕らのような外部から来たコンサルタントは、社内のどこにも属していないから中立的な立場に立ちやすい(中にはバイヤーの手先としてしか動かないコンサルタントもいるけど)。
コンサルティングを始めるときに「部署間の調整を期待しています」とお客さんから言われることも多い。それほど、お客さまの社員自身が中立的立場でファシリテーターになることは難しいのだ。

★なぜ偉い人にちゃぶ台返しされるか
もちろん外部から来たファシリテーターとして、この「中立ならではの役割」は率先して果たす。
その役割を果たした上で、次のステップとして「ファシリテーターも中立的なだけじゃダメでしょ」とも思う。「僕vs他の全員」になる時を思い返してみると、安直な結論に流れていきそうな時や、近視眼的な議論になってしまっている時。つまり、後からひっくり返りそうな結論に落ち着きそうな時。

「経営者の観点から見て、その結論で良いのか」「長期的に見てダメ」「プロジェクトのプロとして、それじゃうまくいかないと思うよ」と思ったときは、例え他の全員が合意していたとしても、議論をふっかけるべきだ。それをしないで決まった「コンセンサス」は脆弱だからだ。

たまに「偉い人にちゃぶ台返しされるので困っています」と相談を受ける。プロジェクトチームで一所懸命議論して出した結論を上司(プロジェクトオーナーなど)に持っていくと、全部否定されてしまうということらしい。どうしたら上司を説得できるでしょうか、という相談だ。

しかしよく事情を聞いてみると、上司が聞く耳を持っていない、というよりは「プロジェクトでやった元々の検討が甘くて、より高い視点から的確な指摘を受けている」というケースが多い。
極端な例だと、業務を効率化するための施策をやるとお客さまが不便になってしまうものだったり、かかる費用ほどは効果が見込めないようなケース。
それって、単にあなた達がやりたいだけの施策でしょ?

そういうダメ出しは、プロジェクトをやっていく上で、ある程度はしょうがない。そういうのを恐れていたら新しいことはできないし、全くないなら上司の存在価値がない。こういう失敗からプロジェクトメンバーが成長していくのもいい。
でも、僕らはプロジェクトを成功させるプロのコンサルタントなので、僕らがファシリテーションをしている会議の結論がそうやってひっくり返される訳にはいかない。そんなことしていてはスケジュールも守れないし。

★中立性を越えて
だから、中立という立場を捨てて、ファシリテーターが自ら意見を主張する事もある。しばしばある。つまり、ファシリテーターであることよりも、プロジェクトの成功請負人であることを優先させているんだろう。
単なる「合意形成」をミッションとするのではなく「戻りのない合意形成」を目指さないと、プロジェクトでは役に立たないし。

そうやって、時に中立じゃない立場に立ってもファシリテーターと認知してもらえ、場を仕切ることを任せられる必要がある。そのためには「私利私欲(自分のポジション)ではなく、公的な何かのために言動している事」について、信頼してもらっておく必要がある。この辺はコンサルタントとしての生命線でもある。

つまり、特定の組織や誰かの見方なのではなく、プロジェクトゴールだとか会社全体が良くなることを考えているんだ、ということを分かってもらう。その立場からしか発言しないんだ、という信頼。そういうファシリテーターこそが、プロジェクトにおいて真に有効だと思う。
僕も、もっとそういうファシリテーターになりたい。

まとめ。ファシリテーターは基本、中立の存在だが、プロジェクトを成功させようとすると、そんなこと言ってられなくなる。それでも信頼してもらうためには「無私」が必要。
今日はここまで。

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