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仕事ができる人の特徴、あるいは当たり前レベルの高さについて

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将来、仕事ができるようになる人はどういう人だろうか?
採用活動では重要な問いなので、一家言ある人も多いだろう。

これについては、面接の場で
・自分のキャリアビジョン
とか
・今回の転職(または就職)の意図
とか
・自分がいかに仕事熱心か
などを明朗に語れることと、将来活躍できることには何の関係もないと僕は考えている。
こういうことを語れる人というのは、質問されることを見越して準備している人かもしれないし、自分のキャリアに自覚的、意図的な人かもしれない。
それは悪いことではないけど、仕事ができる/出来ないとは関係がない。

みたいなことをぼんやりとずっと考えてきたが、最近、これについて今一度考える機会があり、もう少しクリアに言語化できるようになった。
それは「当たり前レベルが高い人が優秀な人」という考え方だ。

例を挙げよう。
仕事をするうえで、必要な知識を速やかに吸収、蓄積することは大事だ。
僕の仕事(コンサルティング)の場合は特に、新しいプロジェクトに配属されると、そのプロジェクトに必要なナレッジを短期間に頭に叩き込むことになる。業界や業種(経理とか営業とか)の常識、ビジネスモデルの構造、最近の変革トレンド、活用が想定されるデジタル技術などなど。
なので、短期間に膨大な知識を、使える形で膨大に脳みそに格納するのが好きな人、得意な人でないと活躍できない。
だからといって、採用面接の時に「知識を吸収するのが好きですか?得意ですか?」と聞いても役に立たない
もし「はい、わたくしは知的好奇心にあふれています!」と答えが返ってきても、それが本当かどうか分からないからだ。

別に面接を受ける人の嘘を警戒している訳ではない。本人にも分からないのだ。
なぜかと言うと、そういうのを他人と見せあって、自分の相対的位置(偏差値57くらいだな・・)を知ることができないから、本人も本当の所は分かっていないから。

例えば20代のころ、僕は月に15冊くらい本を読んでいた。雑多な本読みではあるので、全てが仕事に役に立つとは限らないが、経営学、ソフトウェアエンジニアリングなどに興味が向いていたので、普通にそういう本も乱読していた。
だが、当時の僕は「知識習得に熱心な、真面目な人間である」という自己認識は一切持っていなかった。自分にとってそれが当たり前の生活だったからだ。電車通勤の時に暇だから読んでいただけだし、仕事に関係がある本が多かったのも、それが面白いという理由で選んだだけだった。あと、学生時代には自分よりヤバい本読みがたくさんいたので、相対的な自己認識も低かった。
だから転職活動(2度したことがある)の際も「僕は知識習得に強みがあります!」とは一回も言ったことがない。

なぜこういう事が起きるかというと、「あることが得意な人は、当たり前レベルも高いので、それが特別なこととか、強みだとかは思えない」ということだ。つまり、自己認識はアテにならない。

分かりやすく数値っぽく語ると・・

A君(当たり前レベル40)が「僕は貪欲に知識習得をしています」と言った時に、A君のレベルは50位かもしれない。当たり前の40よりも、自分はずっと高いのだから、きっと強みなんだ!
一方で「いや、まあ、必要ならば情報収集はしますけど。仕事ですから」と言っているB君はそもそも、当たり前レベルが100くらいある。周囲に超貪欲な先輩がいたり、大学や会社で叩き込まれたのかもしれない。

それに比べると、自分はそこまで熱心じゃないしな・・とかいいながら、その人自身も結局はレベル80くらいはやってたりする。

A君とB君はふたりとも嘘は言っていない。ただそれぞれが持つ当たり前レベルが全然違う。
そして当たり前レベルは普段見せ合わないので、ふたりともこのズレを認識していない。
でも仕事を始めたら、レベル50のA君よりも、レベル80のB君の方が貢献度が高い。こういうことはごまかしが効かないから。


もう一つ例を挙げよう。
僕らコンサルタントは「お客さんのビジネスが良くなるために、プロジェクトが成功するために、考え尽くす」ことが求められる。
だから面接でもそういう人を見極めたい。

では
・「僕はお客さんのために仕事をするのが生きがいです」というA君
・「まあ、普通に仕事はしてますよ」というB君
がいた時に、A君の方がお客さんのために考え尽くせる人なのか、は分からない。
双方の当たり前レベルによるから。
マジでこの業界には、B君みたいな言動を普段しているクセに、お風呂の中でもプロジェクトについて考え続けていたり、土曜日に自転車に乗っている時に良い施策のタネを思いつき、慌ててiPhoneにメモするような人はたくさんいるのだ。
ちなみに先程の情報収集に比べて、こちらのほうが厄介だ。情報収集は「本を何冊読んだか」「顧客情報が頭に入っているか」で露呈しやすい。だから不足を悟って奮起することもできる。でもこの「仕事についてどこまで深く考えているか?」は、他人と比べにくい。だから差をつけられていても気付けない。でも、より決定的な差になる。残酷ですね。

これを書いていて思い当たったのだが、僕自身が面接官になる際は、A君みたいな人にアピールされても、無意識にスルーしていた(大人だからなるほど、とか言いながら耳は傾けるけど、ノートにはメモしないとか)。
というのは、かなり気をつけないと「お客さんのためになりたいんです!」と言ってくる人を過剰に評価してしまうからだ。本当はB君の方がお客さんに貢献できるかもしれないのに。


2つの例を挙げたが、同じ様な話は無数にある。
表面上のやる気なんかより、当たり前レベルが高く、当たり前にサラリとやるべきことをやる方が、最終的に貢献できる。


だとすると次なる問いは「当たり前レベルが高い人」をどうやって見極めるかだ。
僕は言うほど採用面接のエキスパートではないので、最短最適な方法かは自信がないが、
a)習慣を聞き、その人の当たり前レベルを推測する
b)今の状態を測定し、その人の当たり前レベルを推測する
という2つの方法がいいように思っている。

a)の場合、例えば「プロジェクトが始まる時に、どんな感じに情報収集しますか?」を結構突っ込んで聞く。そうすると「まず、業界についてのフムフム本を5冊くらい買ってきて、ざっと目を通すことで頭に地図を作ります」だの「お客さんから関連資料をどさっと受け取り、全部熟読します」みたいな、当たり前レベルの高さを伺わせるコメントが出て来くる人がいる。1回のやり取りだけではたまたま、ということもあるのでいろいろな角度から聞くと、だんだん確信が高まっていく。

b)のためには、僕は必ずその人の得意な土俵に上がることにしている。
プロジェクト管理が得意です、大学で〇〇を勉強してきました・・などと土俵が決まったら、そこについて、また突っ込んで聞く。
(ちなみに、僕は雑学習得の当たり前レベルがまあまあ高いので、かなり変わった土俵だったとしても、突っ込める)

そうすると残念なことに、「自分の土俵の割に、あんまりそのテーマについて深く考えていないな・・」とか「経験をその人なりに咀嚼して、再利用可能な知恵にできていないな」という人が結構いる。
こういう人がいくら「僕はお客さんのために全力を尽くすのがモットーです」とかアピールしてくれたとしても、お客さんのビジネスについて深く考え尽くせるとは思えない。考え尽くす習慣も、スキルもないのだから。
つまり「あるテーマを与えられたら、これくらい深く考えるのは当たり前だよね」というレベルが、(ウチの会社でも求めるレベルよりは)低いのだ。こういう人に「深く考えてね」と周囲から忠告しても仕方ない。その人なりには、既に深く考えているつもりなので。

ということで、仕事で本当に貢献できる人は、その仕事に必要なアクションを高いレベルで飄々とこなすけど、それはその人にとっては当たり前レベルをやっているだけ、という話でした。

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