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爆発的に拡大するハイパースケール事業者の設備投資(CAPEX)、その背景を読み解く

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調査会社Synergy Research Groupは2025年9月18日、世界のハイパースケール企業による設備投資(CAPEX)が過去最高水準に達したことを明らかにしました。

Justifying the Explosive Growth in Hyperscale CAPEX

2025年第2四半期のCAPEXは1,270億ドルに上り、前年同期比で72%増という驚異的な伸びを記録しました。この急拡大は一時的な現象ではなく、直近4四半期の累計でも同じ72%の増加率が確認されており、継続的なトレンドとなっています。背景には、AIインフラ構築を中心としたデータセンター投資の加速があります。

一方で、ハイパースケール事業者の収益は拡大を続け、2025年第2四半期の総収益は7,200億ドルに達しました。クラウド(IaaS、PaaS、SaaS)、ソーシャルメディア、検索といった「基幹デジタルサービス」の収益は3,010億ドルと、2021年第1四半期から倍増しています。生成AIの普及が収益成長を後押しし、この2年間で基幹サービスの年平均成長率は18%に達しました。

こうした中、ハイパースケール企業が膨大なCAPEXを正当化できるのかという問いが生まれます。今回は、収益構造の変化、生成AIがもたらす新規需要、投資の妥当性、そして今後の展望について掘り下げます。

ハイパースケール事業者の収益構造の変化と成長軌道

まず注目すべきは、ハイパースケール事業者の収益基盤が着実に拡大している点です。2025年第2四半期の総収益7,200億ドルは、16四半期にわたり平均10%の年成長を積み上げた結果です。

中でも基幹デジタルサービスは、2021年から2025年にかけて2倍に拡大しました。この間にSaaSや検索広告などの従来型サービスが堅調に成長を続ける一方、AI関連サービスが新たな収益源として急速に存在感を強めています。特に、生成AIを活用したクラウド基盤(IaaS/PaaS)は150%以上の年成長を記録し、企業や開発者がAIモデルを迅速に構築・運用するためのインフラ需要を支えています。

Synergyの試算によると、生成AIがもたらす追加的な四半期収益は現在500億ドルに達しており、従来の成長トレンドを上回るスピードで拡大していることが示されています。

AIが牽引するCAPEX需要

CAPEXの中心はデータセンター投資です。2025年時点で世界には1,244のハイパースケールデータセンターが稼働し、さらに527の建設計画が進行中です。この規模感は従来のIT業界の常識を超えています。

AIの活用には膨大な計算能力と高速なデータ処理基盤が不可欠であり、GPUクラスター、専用ネットワーク、液冷システムといった次世代インフラへの投資が相次いでいます。ハイパースケール企業はこれらを前提にCAPEXを急拡大させていますが、その投資が将来の収益成長を確実に裏付ける構造になっている点が特徴です。

この投資は単なる容量拡張ではなく、AI時代の「プラットフォーム覇権」を賭けた戦略的布石でもあります。データセンターに集約されたAIインフラは、検索や広告、SaaSからeコマース、さらにはメタバースや生成コンテンツ市場まで幅広いサービスを支える基盤となっています。

投資の妥当性と比較対象

「収益に対する投資比率」という視点からも、今回のCAPEX増加は異常とはいえません。2021年時点でハイパースケール企業のCAPEX比率は収益の9%未満でしたが、2025年上期には16%を超えました。

一見すると負担増に見えますが、通信業界と比較すると妥当性が浮かび上がります。世界の通信事業者は長年にわたり低成長に苦しむ中でも、収益の16~18%をCAPEXに投じてきました。それと比べれば、成長市場を相手にするハイパースケール企業が同水準の投資を維持することは、持続可能な経営戦略の一環と位置づけられます。

むしろ、収益が拡大する中でCAPEX強化が遅れれば、AI需要を取り込み損ねるリスクの方が大きいと考えられます。収益性と成長性を背景に、巨額投資の正当性はむしろ強調される形となっています。

今後の展望

今後の焦点は、この投資がどのように事業機会へつながるかという観点です。短期的には、生成AIに関連するクラウド基盤の利用拡大が続き、CAPEXはさらなる上振れが予想されます。特に、エンタープライズ領域でのAI導入や、生成コンテンツを活用した新たな広告モデルなどが大きな収益源になる可能性があります。

一方で課題も残されています。電力消費の急増や半導体供給の逼迫は、CAPEXの持続性を脅かしかねません。また、各国の規制強化や地政学的リスクがデータセンター建設の足かせとなる懸念もあります。それでも、AI基盤を握ることが今後10年のデジタル経済を左右することは明らかな状況となっています。

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出典:Synergy Research Group 2025.9

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