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AI需要でデータセンター投資急拡大 ― Dell'Oro Group調査

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米調査会社Dell'Oro Groupは2025年9月16日、世界のデータセンター投資(Capex)が2025年第2四半期に前年同期比43%増と過去最高水準に達したと発表しました。

Hyperscaler AI Deployments Lift Data Center Capex to Record Highs in 2Q 2025, According to Dell'Oro Group

サーバー、ネットワーク、物理インフラのすべての領域で投資が拡大し、その中心には生成AIやエージェントAIを支える大規模計算環境があります。注目されるのは、NVIDIAの最新GPU「Blackwell Ultra」の本格展開や、GoogleやAmazonによる独自チップの投入が加速したことです。

これにより、AI向けサーバー支出は前年同期比76%増という異例の成長を遂げました。一方で、米国の連邦IT予算削減やマクロ経済の減速懸念もあり、企業は自前投資を抑えつつクラウド活用にシフトする動きも強まっています。

今回は、データセンター投資拡大の要因、AIが生み出す産業構造の変化、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

AIが牽引するサーバー支出の急伸

Dell'Oro Groupの分析によると、AI関連サーバーへの投資が市場拡大の原動力となりました。特にNVIDIAの「Blackwell Ultra」プラットフォームは、米大手クラウド事業者や新興のネオクラウド企業、さらに国家レベルの主権AIプロジェクトに採用され、一気に普及が進みました。従来のGPUを超える性能と効率性が、大規模言語モデルや生成AIのトレーニング・推論を可能にし、企業のAI導入スピードを加速させています。加えて、GoogleやAmazonは自社開発のカスタムAIアクセラレーターを増産し、クラウドサービスの差別化を図っています。

これによりAI計算環境は、NVIDIA依存から複数アーキテクチャの競合構図へと移行しつつあります。AI活用が戦略の中心に据えられる中で、ハードウェア投資はもはや研究開発部門だけでなく、経営全体の成長戦略と直結するようになっています。

CPU刷新と汎用計算環境の拡大

AI専用インフラに注目が集まる一方、クラウド大手は汎用計算環境の刷新も進めています。Amazon、Google、Meta、Microsoftの「ビッグ4」は、IntelやAMDの最新CPUを採用したサーバーを大規模に導入し、同時に自社開発のARM系CPUを展開しました。これにより、サーバー統合と電力効率の向上を実現し、従来の業務処理やクラウドサービスの拡張を後押ししています。

背景には、企業が生成AIだけでなくデータ分析、ソフトウェア開発、クラウド移行といった幅広い用途で計算資源を必要としている現状があります。とりわけマクロ経済の不透明感が強まる中で、IT投資を抑制する企業が、柔軟性とコスト効率に優れたクラウド環境に移行する傾向は強まっており、その需要を取り込むかたちで汎用サーバー市場も成長しています。

サーバー市場の競争構図の変化

OEMベンダー間の競争も激化しています。DellはNVIDIA Blackwell搭載サーバーの大量出荷によって、加速サーバー分野でSupermicroを抜き首位に立ちました。一方で、ホワイトボックスベンダー(ODM直販型サーバー)は全体の市場シェアの60%超を占め、依然として圧倒的な存在感を示しています。

この構図は、クラウド大手が自社仕様に合わせたカスタムサーバーを大量調達する「規模の経済」を背景にしています。結果として、ブランドOEMはAI特化型や高付加価値分野で差別化を進め、ODMはコスト効率で優位性を保つという二層構造が鮮明になりつつあります。今後は、冷却技術や電力効率を巡るイノベーションが競争の焦点となり、従来のサーバー供給戦略が根本的に見直される可能性があります。

成長の持続性とリスク要因

2025年通年ではデータセンター投資が30%超の成長を見込まれており、AI需要とプラットフォーム更新が追い風となります。しかし、2026年以降は成長率が鈍化すると予測されています。その理由には、AI向け投資の一巡、半導体供給の逼迫リスク、そして電力確保や環境規制の課題を挙げています。

さらに、米国では連邦IT予算の削減が進んでおり、エンタープライズ市場の需要減速が懸念されています。このような状況下では、企業が自前でデータセンター投資を控え、代わりにクラウドへのワークロード移行を進める動きが広がる可能性があります。

これはクラウド事業者には追い風となる一方、データセンター関連ベンダーには需給の波を伴う不安定要因ともなります。市場拡大の勢いを維持できるかどうかは、AI応用の多様化や効率的な運用モデルの確立にかかっています。

今後の展望

今回の調査結果は、AIがデータセンター投資の主役となりつつある現状を鮮明に示しました。今後も生成AIやエージェントAIの普及が続く限り、加速サーバーや専用チップへの需要は高止まりするでしょう。ただし、市場は単に性能競争に終始するのではなく、消費電力削減や再生可能エネルギーとの両立といった持続可能性が求められています。

日本を含む各国で、電力供給の逼迫が顕在化する中、冷却方式の革新やデータセンター立地戦略の多様化が重要となるでしょう。

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