グローバル規制リスクに企業はどう備えるか
世界経済を見渡すと、政治体制や技術革新の進展によって従来の規制が大きく揺らぎつつあります。
各国の選挙結果が政策の優先順位を変え、これまで安定していたルールが短期間で書き換えられる事例も珍しくありません。さらにAI規制をめぐる議論が勢いを増しており、国内外で大きな政策転換が進む可能性があります。こうした状況で企業が事業継続や成長を見据えるには、リスク管理の精度と意思決定のスピードを徹底的に高めることが重要となっています。
今回は2025年4月8日に発表されたGartnerの資料をもとに、不安定な規制・法的環境が企業にもたらす影響や、その背景と今後の展望について考察します。
新興リスクとしての規制変動
Gartnerが今年の第1四半期に実施した調査では、266名のシニアリスク担当者が「不安定な規制・法的環境」を最も懸念すべきリスクとして挙げました。これは前四半期まで3位にとどまっていたリスクが、一気に首位に踊り出た形です。政治的な体制が大きく変わった国や地域では、新たな政府や議会構成が規制当局のスタンスに影響を与えます。
これまで重要視されてこなかった分野で急に規制強化が行われたり、一方で厳しかったルールが緩和されたりと、従来の安定した見通しが通用しにくくなっています。特にAIの取り扱い方針やデータ管理に関する法改正は、企業の事業戦略に直結するため、リスク評価の優先度が高い領域と言えるでしょう。
出典:ガートナー 2025.4
規制・法的環境の不安定化をもたらす背景
規制・法的環境の不安定化には、政治的な転換期だけでなく、技術の急速な進歩も関わっています。選挙による政権交代や、多国間協定の見直しが進むと、税制や補助金、貿易ルールが短期間で大きく様変わりします。それに加えてAI技術が世界的に普及し、国や地域によってルールの捉え方が分かれていることも複雑化の要因です。
ある国では産業競争力を維持するため柔軟な法整備を進めようとする一方、別の国では個人情報や社会的影響に配慮して厳格な規制を設けようとする動きが目立ちます。企業が複数の市場で同時に事業を展開する場合、こうした方向性の異なる規制や法解釈に素早く対応しなければ、想定外のコストや事業停滞につながる恐れがあります。
ビジネスへの影響
不安定な規制環境が招く影響は広範に及びます。まずコンプライアンス対応に要するコストや時間が増大し、想定外の法改正があれば短期間で内部統制を組み替える必要が生じるでしょう。とくにAIの活用領域では、データの保護やアルゴリズムの公正性が注目を集めるなか、営業活動や研究開発の方針を国ごとに細かく調整するケースも出てきます。加えて貿易や関税の変動により、サプライチェーンの再構築や代替ルートの検討が迫られるかもしれません。
結果的に調達コストの上昇や納期の遅延が顕在化し、企業の収益構造を揺るがす可能性があります。こうした環境下ではリスク評価と対策の優先度を明確にし、限られたリソースを効果的に配分する経営判断が求められます。
対策と組織的アプローチ
このようなリスクを乗り越えるためには、まず法務やコンプライアンス、IT、経営企画など複数部門が連携して、グローバルでの規制動向を速やかに共有する体制づくりが重要です。各国の政治情勢や規制当局の方針をキャッチアップすることで、事前のシナリオプランニングが可能になります。
また、AIやデータ管理に関する専門家を社内外から確保し、法改正への対応策を早期に検討することも効果的です。サプライチェーンにおいては、調達先を一地域に依存しないマルチソーシングの体制を築き、関税や輸送規制の変更に柔軟に対応できるよう備えると良いでしょう。
さらに、経営トップからリスクマネジメントへのコミットメントを明確に示すことで、組織全体の意思決定スピードを高めることが期待できます。
今後の展望
今後は、地政学的な動きとAIをはじめとする先端技術の発展が複雑に絡み合い、規制や法律の更新サイクルが一段と加速する可能性があります。
新しい規制が誕生するごとに企業は対応コストを負担する一方、こうした変化の波を先読みして体制を整えれば、新たなマーケット開拓やブランド強化などにつなげるチャンスも得られます。とくにAI分野では、責任ある開発と透明性を高める取り組みが社会的評価を高めるポイントとして注目されるでしょう。
企業はリスクを単なる脅威と捉えるだけでなく、戦略的に活用する視点を持つことで、激動する世界を生き抜く競争力を育んでいくことが求められます。