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ICT投資の"量から質"への転換期──ROI重視とデジタルレジリエンスが成長をけん引

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生成AIやサイバー脅威への備えがデジタル戦略を根底から揺さぶるいま、ASEAN6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)の企業は、ICT投資を"拡大"から"最適化"へと大胆にシフトしています。

IDCの最新調査によれば、同地域のICT支出は2025年に1,710億ドルへ達し、2028年まで年平均5.8%で拡大が続く見通しです。投資の狙いは「最新技術の収集」ではなく、事業課題を的確に解くROI(投資収益率)と不確実性への備え──デジタルレジリエンス──の向上へと明確に変わりました。

今回はIDCが2025年4月24日に発表した「Worldwide ICT Spending Guide Enterprise and SMB by Industry」の資料をもとに、ASEAN市場のICT投資の背景や戦略、今後の展望について取り上げたいと思います。

ASEAN* ICT Spending to Hit $171 Billion, Driven by ROI-Focused Investments and Digital Resilience

ROI重視がもたらす"選択と集中"の潮流

IDCアナリストのマリオ・アレン・クレメント氏は「ASEAN企業は、単に最新技術を追う時代を終え、測定可能な成果に資源を集中させる段階に入った」と指摘します。生成AIや自動化ツールさえ、導入後1年以内に収益や生産性で定量的な効果が見込めない場合は投資判断が保留されるケースが増えています。

背景には、金利上昇や地政学的リスクによる資本コストの上昇があり、経営層は"早いリターン"を証明できるプロジェクトから優先着手する傾向が強まっているといいます。

成長率トップ10業種が市場の2割を形成

IDCはICT支出成長率の高い上位10業種が、市場全体の約20%を占めると試算しています。金融、製造、ヘルスケアに加え、旅客・物流、観光関連サービスが急伸しており、生成AIを活用した顧客体験向上とリアルタイムデータ分析が投資の主軸となっています。各業界とも規制対応やサイバー攻撃の激化を受け、クラウド上で暗号化とゼロトラストを両立させる仕組みへ予算を厚く配分し、事業継続性を高めています。​

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出典:IDC 2025.4

企業規模別に見るICT投資の"勝ち筋"

大企業(従業員1,000人超)は、IoT×AIで設備自動化を推進し、データセンター統合やクラウド運用最適化でリソースを再配置しています。一方、中堅企業はデータアナリティクスとAIの民主化に照準を合わせ、サブスクリプション型ツールを積極導入しながら、スケーラビリティ確保と意思決定高速化を図っています。SOHOではコラボレーションSaaSやノーコード開発プラットフォームが人気で、低コストで業務効率を高める戦略が主流です。

共通キーワードは「スピードと可観測性」。迅速にPDCAを回し、投資効果を定量検証する姿勢が競争力の差を決定づけています。​

デジタルレジリエンス強化が命題に

自然災害やサイバー攻撃が常態化するASEANでは、事業継続計画(BCP)をクラウドネイティブに再構築する動きが拡大しています。多拠点クラウド構成による冗長化、AI駆動のインシデント検知、サプライチェーン全体を可視化するリスクダッシュボードなど、多層的な対策が脚光を浴びています。とりわけ全国土が島しょ部に分散するインドネシアやフィリピンでは、"停止しないIT"が経営の生命線であり、レジリエンス投資は単なるコストではなく、競争優位を生む資産として認識されています。​

今後の展望

IDCは2028年までCAGR5.8%の成長を予測しますが、その内訳は定量的成果に裏打ちされた"選択と集中"型投資が主軸となっています。

生成AIはPoC乱立の段階を抜け、意思決定速度を圧倒的に高める領域に優先的に実装され、AIガバナンスを前提としたセキュアクラウド基盤の需要が一段と高まるでしょう。

また中長期では、カーボンニュートラル実現を見据えたグリーンICTへの投資も加速し、再生可能エネルギーと連動したデータセンター整備がASEAN全域で進む可能性があります。レジリエンスとサステナビリティを両立できる企業が、次の成長サイクルの市場をリードしていくのかもしれません。

参考出典
IDC「Worldwide ICT Spending Guide Enterprise and SMB by Industry」プレスリリース(2025年4月24日)

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