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生成AI・地政学リスク・環境規制が迫るサプライチェーン改革

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生成AIの急速な普及、関税見直しによるコスト変動、紛争や災害で揺れる物流。企業の供給網は、複数のショックが同時に発生する前提で設計し直す時代に入りました。

CSCO(最高サプライチェーン責任者)は、コスト削減だけでなく成長の推進役としての期待が高まっています。かつては価格と在庫回転率が評価軸でしたが、いまはリスク吸収力と市場機会の創出力が問われています。国内企業も海外売上比率が高まるなかで、従来型の集中調達や単一物流拠点では対応しきれない課題が顕在化しています。

ガートナーはこの状況に対応する三つの戦略を提示しました。今回はガートナーが2025年5月5日に発表したプレスリリースをもとに、サプライチェーンの背景や課題、今後の展望などについて取り上げたいと思います。

Gartner Identifies Three Strategies for Chief Supply Chain Officers to Deliver Value Amid Heightened Uncertainty and Divergent Outcomes

分岐する経営シナリオとサプライチェーンの重み

AIによる需要変動のスピード、各国の規制強化、環境基準の更新が同時に進む現在、企業は複数の未来像を想定して事業計画を練る必要があります。ここで主導権を握るのがCSCOです。ガートナーの調査では、CEOの71%が「自社の現在のビジネスモデルはAI時代に適合していない」と回答しました。

これは、供給網の再設計がデジタル変革の第一歩になり得ることを示しています。CSCOが財務指標だけでなく市場成長指標を共有し、経営陣と同じテーブルで議論する機会を増やせば、供給網はコストセンターから価値創出の基盤へ変われます。また、株主からのESG評価もサプライチェーンの透明性を重視する流れにあり、単に効率を追うだけでは企業価値が毀損するリスクがあります。

可視性とシナリオプランニングで不確実性を減らす

多くの企業がデータ連携の難しさを理由に、高度な可視化の導入を後回しにしています。しかし、部分的なデータでも整理すれば意思決定に活用できます。ガートナーの2024年12月調査によると、高度な可視化を「重要」と評価する割合は八割を超えたものの、投資順位は最下位でした。

CSCOはまず在庫、輸送、サプライヤーリスクなど「事業への影響が大きい分野」から分析を始め、シナリオプランニングを小規模に試すことが推奨されます。成功事例を社内で共有し、段階的に範囲を広げることで、経営陣の理解と投資を呼び込む好循環が生まれます。最初はエクセルとBIツールの組み合わせでも十分に効果を示せるため、高価なプラットフォームを待つ必要はありません。

ネットワークを動的に編成し商機を生む

リスクを把握した後は、供給網を固定型から動的ネットワークへ変える作業が必要です。拠点とサプライヤーを地域・機能面で重ね合わせておくことで、単一障害点を回避できます。同時にCSCOは「収益の創出」にも関与する姿勢が重要です。

たとえば、需要信号をリアルタイムに捉えて製品仕様を微調整し、市場への投入スピードを上げれば、価格競争だけに頼らない差別化が可能になります。分析から得た洞察を開発部門と共有し、配送モデルやサービスプラットフォームを調整することで、供給網そのものが新しい顧客体験を提供する仕組みへ進化します。ネットワーク多様化はコスト増に直結するとの懸念もありますが、需要変動期に迅速に切り替えられる柔軟性は、結果として売上機会の逸失を防ぎ、全社の利益率を押し上げます。

イノベーション投資を止めない仕組みづくり

ガートナーの調査では、企業が技術投資の目的を「コストと効率」に絞る傾向が強まり、イノベーションを優先する割合が低下しています。しかしAIや自動化技術の進歩は加速しており、導入の遅れは競争力低下につながります。

CSCOは自社のリスク許容度や規制環境、組織文化を考慮した投資ポートフォリオを用意し、「実験と拡大」のリズムを途切れさせないことが重要です。その際、デジタルセンターオブエクセレンスを設置し、現場と経営をつなぐ専門チームが導入後の課題解決まで支援するモデルが有効です。新技術を一度きりの導入ではなく、段階的に更新する「継続的移行」として位置づけることで、社員の学習意欲を高め、投資効果を最大化できます。さらに、投資評価指標に「新規収益比率」や「プロセス短縮率」などの定量指標を盛り込み、成果を見える形で示すことが、経営層の継続的な支援を獲得する鍵になります。

今後の展望

今後3年間で、サプライチェーン領域は二つの潮流に左右されます。1つ目は、AIを活用した需要予測とリスク分析が高度化し、意思決定のスピードが飛躍的に向上。もう一つは、関税や環境規制の再編によって物流コスト構造が変わり、柔軟なネットワーク設計の重要性が増していくでしょう。

日本企業は国内外拠点の見直しと生成AIの本格導入を同時に進める局面に入ります。AI予測の精度向上は、エネルギー需要や原材料価格の読み違いによる追加コストを大幅に減らす効果も期待されるところです。

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