「データ×AI」が企業競争力を決める時代へ:CDAOの新たな役割とは
近年、企業活動においてデータの活用が重要です。経営戦略や技術投資の判断を正しく行うには、あらゆる部門が確かなデータをもとに意思決定を進めていく必要があります。情報システムの領域を担うCIOだけでなく、データそのものの価値最大化を担うCDAOの役割が拡大している背景には、AI技術の進化や規制強化が大きく影響しています。
今回は2025年3月31日に発表したIDCの調査をもとに、CDAOによるデータ活用、データプラットフォームとインテリジェンス基盤、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。
CDAOの影響力拡大と背景
IDCの調査によると、2028年までにアジア太平洋地域(日本を除く)の上位2000社の60%で、CDAOがCIOに匹敵する影響力を持つようになると予測しています。従来はITインフラやセキュリティなどを統括するCIOが中心的な役割を果たしてきました。
しかし、企業がデータを競争優位の源泉と捉える傾向が強まるにつれ、データを正しく管理しつつビジネス価値を創出するCDAOの重要性が増しています。実際、データガバナンスやコンプライアンスを徹底するだけでなく、データが提供するインサイトを事業戦略に反映させることで、企業全体の方向性を左右する判断を担うケースが増えてきました。
こうした変化の背景には、デジタル化の加速によって蓄積されるデータ量の増大と、AIの高度化に伴う意思決定プロセスの変容が存在しています。
データとモデルを統合するガバナンスの重要性
データとAIモデルを統合的に管理するアプローチは、企業の競争力を大きく左右します。IDCの予測によると、2026年までにA2000企業のわずか25%しか、データインテリジェンスとAIモデルインテリジェンスを統合した包括的なガバナンスを実現できないとされています。
これは、データの取得や整合性を担保する段階からAIモデルのチューニングに至るまで、多角的かつ継続的な管理が求められるためです。CDAOは、こうした統合ガバナンスの仕組みづくりを主導する立場にあり、単に規制対応をこなすだけでなく、精度の高いデータをもとにビジネスインサイトを引き出す責任を負っています。
AIの利活用が拡大する中、データとモデルを同時に見据えたガバナンスが企業の信頼性と競争力を左右するといえます。
生成AIとデータプラットフォームの連携
AI技術の中でも注目を集めているのが、大規模言語モデルを活用した生成AIです。IDCは、2027年までにアジア太平洋地域(日本を除く)の企業の半数以上が、データプラットフォームの整備によって生成AIを活用する準備を整えると予測しています。データの蓄積から標準化、アクセス制御までを一元的に管理できるプラットフォームを導入することで、組織内のさまざまな部門がスムーズに高品質なデータを活用できる環境が構築されるとしています。
加えて、データの連携性が高まることで、新サービスの創出や高度な予測分析など、これまでにないレベルのイノベーションが期待できます。さらに、こうした動きはCDAOが主導するデータ戦略の一環として、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる要因ともなるでしょう。
データコラボレーションとセキュリティ課題
データの利活用がさらに広がる一方で、企業間や部門間のデータコラボレーションも活発化しています。IDCは、2028年までにA2000の70%がデータエクスチェンジやデータクリーンルームを活用するようになると見込んでいます。また、生成AIによる合成データの活用は、不十分なデータセットを補完し、予測分析の精度を40%高める可能性があると指摘しています。
一方で、データセキュリティやプライバシーの課題も深刻化しており、A2000企業のセキュリティチームが集める情報の40%を他部署と共有することで、一元的なガバナンス体制を構築する動きも進んでいます。
CDAOはデータの価値を最大化しつつ、安全かつ責任あるデータ活用モデルを企業文化として根付かせるために、組織横断的な調整役として大きな期待を集めています。
今後の展望
今後、企業はデータプラットフォームを整備するだけでなく、エンタープライズ全体を横断するインテリジェンス基盤を築くことが求められています。CDAOの存在感はさらに高まると予想され、AIやアナリティクスの導入における中心的な推進役となるでしょう。データの正確性や信頼性を担保しながら、ビジネスの持続的な成長につながる意思決定を迅速かつ柔軟に行う仕組みづくりが重要です。
また、CIOとの協業により、ITインフラからデータ活用までを包括的にマネジメントする体制が整備されれば、企業は予測不能な市場環境にも適応しやすくなります。さらに、データやAIの国際的な規制動向を意識しながら、各地域の企業文化に合わせた戦略を構築していくことで、アジア太平洋地域のみならず世界規模での競争力向上にも寄与できる可能性もあるでしょう。