AI時代の電力危機を救う切り札となるか?小型モジュール炉(SMR)
生成AIをはじめとしたAI技術が加速しており、それに伴う電力消費の急増が世界規模で懸念されています。大規模データセンターが年々高性能化していく一方で、既存の電力インフラでは需要をまかないきれない可能性が高まっています。
再生可能エネルギーの拡充だけでは間に合わないリスクもあり、持続的かつ安定的な電力を確保できる新たな選択肢が求められています。こうした背景の中、注目を浴びているのが小型モジュール炉(SMR)です。
従来の大型原子力発電所とは異なり、柔軟な設置や安定供給が見込まれる点に加え、AIの成長を支える上でカーボンフリーを実現する選択肢として期待が高まっています。今回は2025年4月15日にガートナーが発表したレポートをもとに、小型モジュール炉の背景や概要、今後の展望などについて取り上げたいと思います。
Solving AI's Power Problem with Nuclear Energy
急増するAIの電力需要を支える小型モジュール炉(SMR)の可能性
AI分野の進化は、あらゆる産業におけるデータ活用を促進し、企業競争力を左右する大きな要因になっています。生成AIの台頭によって、高性能GPUをはじめとするAIサーバへの投資が加速し、データセンターの電力使用量が爆発的に増加する流れがいっそう強まっています。
ガートナーの試算によると、AIに最適化されたサーバ群を維持・運用するための電力は、2027年に世界全体で年間500テラワット時(TWh)に達する見込みです。これは2023年と比べて2.6倍という大幅な増加になります。
このようにデータセンターの消費電力が急増する中、既存の電力網に依存し続けるだけでは安定供給が難しくなると予測されています。そこで注目されるのが小型モジュール炉(SMR)です。小型モジュール炉は独立した発電源として稼働し、大規模データセンターに対して安定的な電力を提供しやすいだけでなく、電力網の変動にも左右されにくいメリットが期待されています。
大手テック企業も小型モジュール炉(SMR)の検討が進められています。
・Meta、AI需要増で原子力発電強化へ SMRや大型原子炉検討(2024.12)
・原発に活路見いだす米テック大手、AI開発の競争激化 (2024.11)
再生可能エネルギーでは補いきれない課題と小型モジュール炉(SMR)の優位性
再生可能エネルギーはクリーンで持続可能な電力源として注目されてきましたが、風力や太陽光発電の場合、天候や昼夜の影響を受けやすく、24時間の安定供給が課題になっています。
蓄電技術の進歩や電力の売買調整が進展しているものの、AIのように常時稼働が必要なシステムをまかなうには、さらなるバックアップや大規模な蓄電設備が求められます。その点、小型モジュール炉は天候に左右されることなく連続稼働が可能であり、CO₂排出を大幅に抑えられるため企業のカーボンフットプリント削減にも寄与しやすい特徴があります。
また、大型原子炉よりも建設期間やコストが低減される見通しがあり、立地条件の選択肢も増えるとされています。このような特長を背景に、小型モジュール炉はAIを含む高度な産業活動を支える長期的解決策として期待されています。
小型モジュール炉(SMR)導入を阻む課題と乗り越えるための道筋
小型モジュール炉(SMR)の可能性が高く評価される一方、導入にあたって解決すべき課題もあります。まず、原子力発電全般で避けて通れない核廃棄物の問題です。小型モジュール炉(SMR)も稼働に伴い放射性廃棄物を排出するため、これをどのように安全に処理・保管するかが重要です。再処理技術の進歩により、廃棄物を再利用したり放射能レベルを下げたりできる手段が検討されていますが、具体的な展開には技術開発と法整備の両面からの支援が必要になります。
さらに、小型モジュール炉(SMR)は実用化の初期段階ではコストが高くなると予想されます。風力や太陽光といった他の電力源に比べても、法規制や認可プロセスが複雑であり、十分な官民連携によるインセンティブ設計が求められます。開発や建設に時間を要することから、2030年前後までは試験運用や限定的な導入にとどまる可能性もあるでしょう。
企業が今から取り組むべき戦略的検討
AIの普及がもたらす電力需要の拡大は、今後さらに進むと考えられます。そのため、企業が将来的に小型モジュール炉(SMR)を活用する可能性を視野に入っていく可能性があります。長期的な電力需給計画に小型モジュール炉(SMR)を選択肢として組み込み、地方自治体やエネルギー関連事業者との連携方法を検討することが重要の選択肢の一つとなる可能性があります。
また、再生可能エネルギーとのハイブリッド運用や、水素・蓄電池などを組み合わせた多角的な電源ポートフォリオを構築する取り組みも求められています。現時点で具体的な導入に踏み切るのは難しくても、将来に備えて検討していくことも必要となるのかもしれません。
今後の展望
生成AIのさらなる需要拡大やデータセンターの市場拡大に伴い、小型モジュール炉(SMR)をはじめとした新しい原子力技術の実用化に向けて、各国政府が研究開発や法整備を支援する動きが進む可能性があります。安全性やコスト面の課題がクリアされれば、小型モジュール炉はデータセンターだけでなく、工業地帯や地域社会への電力供給にも活用される可能性も視野に入ってくるかのかもしれません。