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AI導入の成否を分けるインフラ点検とモダナイゼーション

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世界的にAIを活用する動きが加速するなか、最新のIT基盤やアプリケーションの健康状態を適切に保つことは企業競争力を左右する大きな要因になっています。

IDCの調査によると、AI活用の本格化に向けたITインフラのモダナイズがアジア太平洋地域で急速に進んでおり、2026年までにアジアの大手企業(A1000企業)の60%がアプリケーションやインフラの点検や準備に専門的サービスを求めると予測されています。また、クラウドからAIへと重心が移る流れが一段と加速し、新たなデータ活用がビジネス変革に大きく寄与している点にも注目が集まっています。IDCの調査をもとに今回は、AI基盤の整備と専門サービスの必要性について、取り上げたいと思います。

IDC Predicts: By 2026, 60% of Asia/Pacific Enterprises Will Require Professional Services for Readiness and Health Checks on Applications and Infrastructure

AIによる競争環境とデジタルインフラの重要性

AIの導入はクラウドの普及期に匹敵するほどの勢いを見せています。企業がAIを活用して事業価値を高めるためには、大規模なデータ処理を支えるデジタルインフラが求められています。具体的には、アジリティ(俊敏性)とセキュリティ、レジリエンス(柔軟性と復元力)、そしてスケーラビリティ(拡張性)を兼ね備えたIT基盤が重要となっています。

これらのIT基盤の対応が不十分の場合、たとえ優れたAIアルゴリズムを導入しても思うように成果を出せません。データを素早く扱えるシステムが整備されていなければ、高度な分析モデルや機械学習の訓練を実施しようとしてもボトルネックが発生してしまいます。つまり、AIに対応したインフラが整っていれば、ビジネス上の意思決定を高品質かつ高速に行う土台が整備されることになります。

IDCのレポートによると、このようなAI基盤を整える動きは2025年以降さらに加速すると見られています。アジアの企業においては、既にデータ活用を競争力の源泉と位置づけ、AI投資を拡大する計画を打ち出す事例が増えています。AIレースを勝ち抜くうえで、まずはインフラ面の抜本的な見直しが必要となっています。

ITインフラのモダナイズとアプリケーションの課題

IDC Asia/Pacific Enterprises Services Sourcing Survey(2024年版)によると、アジア太平洋地域の企業は、今後18カ月の間に「コアITインフラのモダナイズ」を最優先課題として位置づけています。従来型のオンプレミス環境は、柔軟な拡張性や高度なセキュリティ対策が難しいケースも多く、レガシーアプリケーションをそのままにしておくと、AIやクラウドと連携した新たなビジネススキームを展開する際に大きな障壁となるためです。

また、アプリケーションのモダナイゼーションも同様に重視されており、67%の企業がレガシーアプリケーションの刷新をトッププライオリティとして挙げています。レガシー環境には複雑なカスタマイズや古いシステム仕様が残存している場合が多く、モダンなインフラや新技術と連携しにくい課題が生じがちです。こうした課題が根強く残る背景から、多くの企業は専門サービスに助力を求め、アプリケーションおよびITインフラの"健全度"を診断してもらい、その結果を踏まえたロードマップ策定を進めようとしています。

このようなモダナイズが進むことで、企業は高負荷かつリアルタイムな分析プロセスを処理できる環境を構築し、AI活用の下地を整えることができます。企業のDX推進や新規ビジネス開発を支えるうえでも、ITインフラとアプリケーションの更新は重要となっています。

生成AIへの期待とAI導入の本格化

近年注目を集める生成AIは、従来の機械学習と比較しても新たな価値創造の可能性を大きく広げています。AIを使った画像生成や自然言語処理などの応用範囲は拡大の一途をたどり、企業でも顧客体験の向上や製品開発の効率化などへ活用が期待されています。

IDCの予測によると、2027年までにA1000企業の40%以上が生成AIを活用したトレーニングプラットフォームを導入し、人材育成やスキルギャップの解消を図る見込みです。IT人材不足やスキルギャップは多くの企業にとって深刻な問題ですが、生成AIを活用することで学習効率を高め、習得スピードを向上できるメリットが期待されます。

一方で、AIのROI(投資対効果)が期待どおりに得られないケースも出始めています。2027年までに30%の企業が、AI導入に十分な計画や予算の最適配分ができず、ROIの低さに不満を募らせ投資を見直す事態に陥るという見通しもあります。AIの導入は、一時的なブームに乗るだけでは成果につながりにくいため、経営戦略と連動した明確なロードマップと継続的な体制整備が求められています。

企業が取り組むべきステップと専門サービスの役割

AIを成功裡に導入するためには、データの管理やセキュリティ体制の強化、既存システムとの統合など、企業内のITアーキテクチャを包括的に設計し直す必要があります。データをどこで処理し、どのように活用し、それを誰が管理するのかといった基本戦略が明確になっていないと、部署ごとに導入目的や仕様がバラバラになり、投資対効果を得にくくなります。

こういった状況で求められているのが、ITコンサルティングやシステムインテグレーションなどを提供する専門サービスです。アジア太平洋地域では、グローバル企業が自社のコア技術や高難度の工程を海外の開発拠点(グローバル・ケイパビリティ・センターなど)に移管し、AIやクラウド導入を加速させる動きが活発化しています。IDCによると、2028年までにA1000企業の40%が自社のエンジニアリングやAI、クラウドなど高度なテクノロジー機能を最大30%アウトソースする可能性があると見られています。

また、ESG(環境・社会・ガバナンス)への対応も外部サービスの力を借りる領域と捉えられつつあります。環境規制が強化されるなか、2028年までにカーボンニュートラルを目標とする企業の半数以上が、専門サービスに相談しながら体制構築を進める見込みです。自社内でノウハウを一から育てるのは難しく、規制対応や技術動向の変化にスピーディーに追随するため、専門機関との連携が重要になっています。

今後の展望

AI活用が本格化し、生成AIの導入が広がると、企業が直面する技術的・組織的課題は一段と複雑化する可能性があります。こうした環境下では、ITインフラとアプリケーションのモダナイズが新たな事業チャンスの起点となり得ます。また、グローバル・ケイパビリティ・センターや専門サービスの活用が当たり前になることで、企業境界を越えた連携や共創の流れが加速することが予想されます。

AIをはじめとする先進技術を、ビジネス戦略にいかに組み込めるかが競争力を左右する要因になっていきます。AIによるイノベーションを実現するためには、専門性を持ったサービスパートナーと継続的に連携し、技術と組織の両面で柔軟な変革を推し進める姿勢がますます求められていくでしょう。

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出典:IDC 2025.3

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