AI時代の脅威に備える:企業セキュリティを強化する4つのアプローチ
生成AIの台頭により、サイバー攻撃と防御の両面でAIが不可欠な武器へと昇華しつつあります。攻撃者はAIを巧みに操り、フィッシングメールの自動生成から脆弱性探索までのプロセスを高速化しています。一方、防御側もAIによる異常検知や自動レスポンスで対抗しなければ、複雑化する脅威に追いつけません。
こうした攻防の激化を背景に、ガートナージャパンは2025年4月22日、企業のセキュリティ・オペレーションを強化するための「AIへの4つのアプローチ」を発表しました。今回はガートナージャパン株式会社が2025年4月22日に発表した『企業のセキュリティ・オペレーションで実施すべきAIへの4つのアプローチ』の資料をもとに、AIセキュリティの背景や概要、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。
国内外の経営層は「AIで何でも守れる」という幻想を抱きがちですが、現場のSRMリーダーを取り巻く風景はむしろ情報過多です。脆弱性データベースの更新、攻撃コードの公開、ベンダーの新機能、各国規制の改定が絶え間なく押し寄せます。担当者は限られた人員と時間で優先順位を付け、実証を繰り返さなければなりません。一回限りのPOCで終わるような取り組みでは、膨らみ続けるリスクとのギャップを埋められないのが実情です。AIの真価は、この混沌を分類し、意思決定を高速化する点にあります。ガートナーは、課題を"万能論"から"実践論"へ転換する起点として4つのアプローチを提示しました。
攻撃者のAI悪用パターンを可視化する
第一のアプローチは、攻撃者がAIをどう悪用しているかを絶えず観測し続けることです。生成AIは、自然言語のゆらぎを利用したフィッシング文面の大量作成や、コード解析によるゼロデイ探索を高速化しています。従来の署名型防御では変化に追随できず、脅威ハンティングチームがAIの示す相関から"兆し"をつかむ体制が必須です。ガートナーは、ログやテレメトリを継続的に収集し、統計的異常値をAIでスコアリングする仕組みを基盤に据えることを推奨しています。
AIで防御精度を高める道筋
第二のアプローチは、防御精度を高めるためにベンダーが実装するAI機能を積極的に評価し、欠けている検知能力を補完することです。日本企業を対象にしたガートナーの調査では、20.5%がAIベースのマルウェア検知を導入し、54.3%が検討中であることが示されました。EDR、NDR、SIEMを統合して脅威スコアを自動集約し、優先度の高いアラートだけをアナリストに提示する"セキュリティ・メタレイヤー"を築けば、運用効率と精度を同時に引き上げられます。モデルの学習データが偏っていないかを定期的に検証し、誤検知率やレスポンス時間が目標値を超えた際には閾値を動的に調整するガバナンスも欠かせません。
脅威インテリジェンスを経営の言語へ翻訳する
第三のアプローチは、AIにより高度化された脅威インテリジェンスを業務にフィードバックする流れを確立することです。従来、脅威レポートは技術用語で埋め尽くされ、経営陣にとっては理解が難しいものでした。自然言語生成モデルでサマリーを経営の意思決定指標に変換すれば、予算配分や施策の優先度が合意形成しやすくなります。報告書作成にAIを活用した、あるいは検討中と回答した企業は合計75%を超え、レポート作成に費やしていた工数を"洞察"へ再投資する動きが顕在化しています。AIが生成した評価を盲信せず、検証・修正のループを組織に埋め込み、情報の質を保つ仕掛けが重要となります。
セキュリティ・オペレーションをAIで再設計する
第四のアプローチは、セキュリティ・オペレーション自体をAIで再設計する視点です。インシデントの初動分類、証跡の相関分析、復旧手順の提案など、人手に頼っていたタスクを自動化すれば、少人数のSOCでも24時間体制を維持できます。ただし、モデルが出す結論を説明できなければ、監査や法的責任を果たせません。まずは誤検知が多いアラート対応など明確なKPIが設定できる領域から試行し、成功事例を積み上げることでブラックボックスへの警戒心を和らげ、組織文化にAIを浸透させることができます。最終的には、AIが意思決定の提案と根拠を同時に提示する"説明可能なAIプラットフォーム"を核に、ガバナンス、リスク、コンプライアンスを横串で連携させる構想が見えてきます。
今後の展望
今後、AIセキュリティは「モデルの賢さ」よりも「運用サイクルの成熟度」が差を生む段階に入ります。モデルがクラウド経由で民主化される中、データ品質と学習ループの速さが競争力を決めます。国内企業は人材不足を理由に導入を先送りしがちですが、失敗から学べる設計に切り替えることで世界水準に追いつくことも可能となるでしょう。
生成AIの進化で攻撃側の自動化も加速し、24カ月後には「AI対AI」の応酬が常態化する見通しです。経営陣は予算を"守りのコスト"から"事業継続の保険"へ再定義し、セキュリティ部門を変革の駆動輪に据える必要があります。その際、脅威インテリジェンス共有枠組みに参加し、グローバルの知見を取り込み続ける体制が不可欠となるでしょう。