AIの進化が営業職を変える、オーバーエンプロイメントへの懸念も
Gartnerが2025年2月12日に発表した予測によると、2028年までに営業職の10%がAIによる業務の効率化を活用し、密かに複数の仕事を掛け持ちする「オーバーエンプロイメント」に走る可能性があると指摘しています。
Gartner Predicts 10% of Sales Associates Will Use AI to Secretly Juggle Multiple Jobs by 2028
AIが手作業や反復的なタスクを自動化し、営業担当者に大幅な時間の余裕をもたらすためです。
2024年9月にGartnerが実施した3,496人のグローバルな従業員を対象とした調査では、回答者の41%が「新技術の導入により業務負担が軽減された」と回答しています。これにより、従業員はより多くの自由時間を確保し、それを別の仕事に活用することが可能になります。
Gartnerのシニアプリンシパルアナリストであるアリッサ・クルーズ氏は、
営業担当者のトップ層が既存の職務への関与を失いつつあることに、最高営業責任者(CSO)は留意する必要があります。適切な報酬体系を再構築しない限り、営業チームのエンゲージメントが低下し、優秀な人材が離職するリスクが高まります
と指摘しています。
こういった状況の中、給与やインセンティブプランの再設計が求められています。従業員が一定以上の成果を上げた場合に報酬が頭打ちになる「コミッションキャップ」の撤廃や拡張が、営業担当者のモチベーションを維持するために重要になるとされています。
多様な認知特性を持つ顧客への対応が求められる
Gartnerはさらに、2029年までにフォーチュン500企業の25%が、情報の受け取り方や感覚の違いに配慮したコンテンツやツールを開発すると予測しています。
B2B購買グループの約20%は、情報処理の仕方や感覚の受け止め方に独自の特性を持つ顧客であり、彼らのニーズを満たすことが営業戦略の鍵となります。しかし、現状の営業活動やマーケティングコンテンツは、一般的な顧客向けに設計されており、このような特性を持つ顧客の購買意思決定を支援できていない場合が多くあります。
この傾向に対応するため、企業は情報の可視化を強化し、感覚刺激を最適化したインターフェースを設計する必要があります。消費者は今後、より自分たちの価値観に合致した企業を選ぶ傾向が強まり、多様な顧客特性への対応が競争優位性の要因となる可能性があるとしています。
AIの普及が営業職の「ソフトスキル」低下を招く
Gartnerはまた、2028年までに新たに営業職に就く人材の約30%が、AIへの過度な依存により、対人スキルの不足に直面する可能性があると指摘しています。
AI技術の進化によって、データ分析や顧客情報管理の負担は大幅に軽減されます。しかし、その一方で、営業職に不可欠な関係構築力や傾聴力、共感力、批判的思考力などのソフトスキルが衰退するリスクがあります。
この課題に対処するためには、企業がソフトスキルの研修に積極的に投資することが不可欠です。AIを活用しながらも、顧客との信頼関係を築くための「ヒューマンセントリックな営業アプローチ」を維持することが、持続的な成功につながるとしています。
今後の展望
Gartnerの予測が示すように、営業職はAIの影響を大きく受けることになります。AIが業務の負担を軽減し、効率化をもたらす一方で、二重雇用の増加、ソフトスキルの低下、異なる情報処理特性を持つ顧客への対応の必要性といった課題も顕在化しつつあります。
今後、企業が競争力を維持するためには、適切なインセンティブの設計が求められ、営業職のモチベーションを維持し、優秀な人材の離職を防ぐために、報酬制度の見直しが必要となっています。
また、情報処理の特性が異なる顧客への対応を強化し、情報提供の手法を最適化することも重要になります。AIを補完する形で、対人スキルを強化し、顧客との関係構築を促進する研修を充実させることが求められます。
AIの普及が進むなかで、企業がどのように「人間らしさ」を維持しながら変化に適応するかが、これからの企業の営業のあり方を左右する重要なポイントとなるのかもしれません。