日本のエンタメ・クリエイティブ産業の未来像
日本のエンターテインメント・クリエイティブ産業は、デジタル技術とグローバル市場の拡大により、新たな成長の機会を迎えています。日本が世界に誇るアニメやゲーム、音楽などのコンテンツは、国内市場を中心に発展してきましたが、人口減少や消費行動の変化を受け、海外市場の開拓が不可欠となっています。
経済産業省は2024年11月6日、「第1回 エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」を開催し、今後の日本のエンタメ・クリエイティブ産業の振興戦略と未来像を示しています。今回は、日本と世界のエンタメ・クリエイティブ産業の現状、変化する環境、振興戦略、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
世界及び日本のエンタメ・クリエイティブ産業の現状
エンターテインメント・クリエイティブ産業は、世界規模で見ても成長著しい分野の一つです。2022年には世界のコンテンツ市場が135兆円を超え、石油化学や半導体を上回る市場規模となっています。
世界のコンテンツ市場では、日本は、アメリカ、中国に続いて世界第3位の市場規模となっています。その一方で、国内市場だけに依存したビジネスモデルでは今後の成長が難しいとされ、少子高齢化による国内市場の縮小に備えて、海外市場への展開が急務となっています。
日本のコンテンツ輸出額も増加傾向にあり、2022年には映画、アニメ、ゲームといった主要なエンタメ分野で売上が拡大しています。中でもゲームやアニメの海外売上は他国と比べても好調であり、日本のアニメやゲームは今後も世界における競争力を維持する重要な産業の役割を担っています。
エンタメ・クリエイティブ産業を取り巻く環境の変化
デジタル化の急速な進展は、エンターテインメント・クリエイティブ産業の構造を大きく変えようとしています。音楽や映像、ゲームのコンテンツは、グローバルなプラットフォームを通じて世界中へ配信が可能となり、日本のコンテンツが世界のファン層にダイレクトに届くようになっています。アニメや音楽など、これまで人気のあった日本のコンテンツも、今では国際的なストリーミングサービスやサブスクリプション型サービスを通じて市場を拡大しています。
また、生成AIやNFT(非代替性トークン)といった新技術の導入により、制作や流通の効率化が進み、クリエイターの新しい収益モデルが生まれつつあります。生成AIを利用したコンテンツ制作は、これまでコストがかかっていた作業を効率化し、クリエイターが低予算で高品質な作品を世界市場に展開できるようになっています。また、NFT技術の導入により、ファンとの直接的な関係を築く仕組みが形成され、コンテンツの価値向上にも寄与しています。
体験型コンテンツの需要も高まっており、中でもVRやAR技術を活用した没入型のライブエンターテイメントや、IMAXなどの体感型シアターが人気を集めています。アメリカのラスベガスに建設された巨大球体型アリーナ「スフィア」のように、16Kの超高解像度映像や数十万個のスピーカーによる没入型ライブ体験が注目され、今後のエンタメ業界の新しい方向性を示しています。
エンタメ・クリエイティブ産業振興に向けた方向性
経済産業省は、エンタメ・クリエイティブ産業を「成長産業」としてさらに発展させるため、5つの柱を掲げています。
- 戦略的な海外市場の獲得 日本の人口減少に伴う国内市場の縮小に備え、グローバル市場の開拓を加速することが必要。アジア市場や欧米市場への進出を強化し、国内市場に依存しないビジネスモデルを構築する方針。
- クリエイター人材の確保と育成 優れたコンテンツの創造には、質の高いクリエイターが不可欠であるが、人材不足が課題す。そのため、クリエイターに適切な報酬を還元し、働きやすい環境を整備することが重要に。また、若手クリエイターの育成にも力を入れ、将来の産業の発展に寄与する人材の育成が重要。
- 創作活動を支える環境の整備と構造改革 デジタル技術の進展により、制作環境や流通環境も変化。DXの推進により、クリエイターが効率よく制作に取り組める環境を整え、クリエイティブ産業全体の生産性向上を展開。また、外部クリエイターと柔軟に協力できる体制の整備も推進。
- IPを活用した地域活性化と他産業への波及効果 日本各地の地域活性化を目指し、コンテンツの「聖地」として観光産業と連携することで、地方経済の活性化を図る取り組みを推進。例えば、アニメの舞台となった地域が観光地化されることで、インバウンド観光の拡大につながるケースも増加。
- デジタル技術の活用と新たな技術進化への対応 AIやブロックチェーンといったデジタル技術を活用し、新しい収益モデルや制作方法を模索する取り組みも展開。こうした技術を活用することで、日本発のコンテンツが海外でも評価される環境を整え、デジタル市場の変化に迅速に対応することが重要に。
海外展開の進め方について
エンタメ・クリエイティブ産業のさらなる成長には、積極的な海外展開が不可欠となっています。経済産業省は、日本のエンタメ産業が国際的な舞台で競争力を発揮できるよう、マーケティングデータの整備や市場調査を進め、ターゲット市場に応じた戦略を打ち出す方針を示しています。また、海外展開のための専門知識を持つ人材の育成や、デジタルプラットフォームを活用した新たな流通経路の確保も進められています。
日本のコンテンツ産業は、欧米やアジア諸国との競争が激化しており、中でも韓国や中国が積極的に国際市場に進出している状況です。これに対抗するため、日本は戦略的に市場を開拓し、配信プラットフォームを通じてグローバルなファン層を拡大していくことが重要となっています。日本のコンテンツが評価される「品質」を維持しながら、スピーディな市場展開を図ることで、国際競争力を高めることも求められています。
今後の展望
エンタメ・クリエイティブ産業の成長には、好循環モデルの確立が重要となっています。優れたコンテンツが収益を生み、その収益がクリエイターに適切に還元され、さらに新たな作品の創出に繋がることで、産業全体の発展が期待されています。日本発のコンテンツがグローバル市場での評価を高めるためには、デジタル技術を駆使した効率的な制作体制と、迅速な市場対応も求められています。
今後は生成AIやブロックチェーンなどの技術革新によって、より多様で高品質なコンテンツが生まれることも期待されています。
政府と民間が連携し、デジタルプラットフォームを最大限に活用したグローバル展開が進むことで、日本のエンタメ・クリエイティブ産業は世界でリーダーシップをとっていけるのか、今後の動きが注目されるところです。