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「産業データスペース」の構築・実現に向けて

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2024年10月15日、経団連(十倉雅和会長)は、提言「産業データスペースの構築に向けて」を発表しました。

本発表では、現状や課題を踏まえ、産業データスペースの構築がもたらす意義、具体的な官民の役割、および実現に向けた具体的なアクションについて提言しています。

日本が直面するデータ連携基盤の整備の遅れ

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の増加や、EUでの炭素国境調整措置(CBAM)やデジタル製品パスポート(DPP)の義務化など、環境規制が強化されています。企業のグローバルサプライチェーンにおける製品のCO2排出量や使用原材料に関する情報開示が一層求められています。

EUでは「データスペース」と呼ばれる異なる国や業種を越えたデータ連携の仕組みが進展しており、製造業向けの「Manufacturing-X」や自動車業界の「Catena-X」など、産業に特化したデータスペースの構築が進行中です。これにより、信頼性の高いデータ連携が実現し、国際的な競争力が高まっています。

一方で、日本においても経済産業省が推進する「ウラノス・エコシステム」など、官民協調によるデータ連携基盤の構築が進められていますが、国際的な相互運用性を担保する「トラスト基盤」の整備は未だ途上です。

現在の状況では、日本企業は自らのデータの信頼性を国内で証明することができず、結果として国際的なデータ連携においては、海外のデータ基盤に依存せざるを得ない状態にあります。このままでは、グローバル市場での競争力が低下し、産業全体の発展が阻害されるリスクが懸念されています。

産業データスペースとは?

「産業データスペース」とは、異なる国や業種、企業間で信頼性のあるデータを安全かつ効率的に連携し、相互に活用できる標準化された仕組みを指します。

具体的には、各企業が自社のデータを安全に共有・活用するために、データの真正性や送信者の本人性を証明する「トラスト基盤」の上でデータが流通する仕組みが整備。この仕組みにより、企業はバリューチェーン全体でデータを共有し、製品の環境負荷やCO2排出量などの情報を可視化することが期待されます。

産業データスペースの目的は、単なる情報共有にとどまらず、企業がデータを活用して新たな価値を創出し、競争力を高めることにあります。製造業では前述したように「Manufacturing-X」、自動車業界では「Catena-X」といったプロジェクトが進行しており、こうしたデータ連携基盤が企業間取引や環境規制への対応を支援しています。

目指すべき産業データスペースは、企業間で安全かつ信頼性のあるデータ連携を可能にする「トラスト基盤」の上に構築され、データの真正性と提供者の「データ主権」を確保する仕組みです。さらに、EUのGAIA-Xやアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)との相互運用性を重視し、グローバルなデータ流通を目指していくことです。

目指すべき産業データスペースのイメージ  出典:経団連 産業データスペースの構築に向けて 2024.10.15

産業データスペース構築の意義と期待される成果

経団連は、産業データスペースの構築が次の三つの重要な価値をもたらすとしています。

  1. 産業競争力の強化
    デジタルトランスフォーメーション(DX)による新たな価値創出には、競争領域での独自性の発揮と同時に、協調領域でのデータ共有が重要。産業データスペースを活用することで、企業は競争力の源泉となるデータを基にした分析やビジネス戦略を展開し、新たなサービスを創出することが期待。このデータ連携が広がることで、産業全体の競争力を底上げし、日本経済全体の発展に寄与することが期待。
  2. 地球規模課題の解決
    環境負荷の低減を目指すGX(グリーントランスフォーメーション)やCE(サーキュラーエコノミー)に対応するため、産業データスペースを通じて、企業や業種の垣根を越えたデータ連携が不可欠。バリューチェーン全体でのデータの可視化が進むことで、環境負荷を把握し、削減に向けた効果的なアクションの展開にも。これらの取り組みは、脱炭素化社会の実現に向けた国際的な取り組みとも連動し、地球規模での環境問題解決への貢献にもつながることが期待。
  3. 情報開示・規制対応の円滑化
    産業データスペースは、ESG投資家や消費者が求める製品の透明性や環境負荷の情報開示に対応するツールとしても効果的。また、炭素国境調整措置(CBAM)やデジタル製品パスポート(DPP)といった環境規制に対しても、産業データスペースを活用することで、企業は信頼性のある情報を迅速かつ正確に提供できるため、国際的な規制にも円滑に適応できることにも。

官民に求められる具体的アクション

産業データスペースの実現には、政府と民間が一体となった取り組みが不可欠であり、経団連は以下のような具体的なアクションを提言しています。

  • 戦略と工程表の早急な策定
    デジタル庁が主導し、経済産業省と協力して政府全体の戦略と工程表を策定することが急務。「トラスト基盤の整備」を最優先事項と位置づけ、産業データスペースの社会実装に向けた道筋を具体的に示す。
  • トラスト基盤の整備
    データの信頼性と相互運用性を確保するため、参加企業の本人性確認やデータの改ざん防止機能を備えた「トラスト基盤」の構築が必要。この基盤が整備されることで、企業は安心してデータを連携・活用でき、また国際的な取引や競争においても自らのデータの真正性を保証できるように。
  • 既存システムの活用と官民によるコスト負担
    ウラノス・エコシステムなど既存のデータ連携システムを活用し、トラスト基盤と連携させることで国際的な信頼性や相互運用性を加えていくことを想定。また、産業データスペースの立ち上げには、初期段階での開発・実装費用を政府が支援し、ランニングコストについては産業界が負担することが合理的。中小企業に対しては、政府による支援が不可欠。
  • ユースケースの創出と普及促進
    産業データスペースの価値を実証し、広範な利活用を促進するために、具体的なユースケースを官民連携で創出し、成功事例として展開していくことが重要。こうしたユースケースを通じて、幅広い企業や業界に産業データスペースのメリットを訴求し、社会全体での受容性を向上。
  • 産業データスペースの国際展開
    日本の産業データスペースを国際的に展開するために、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)などの枠組みを活用し、ASEAN諸国との協力を促進。これにより、アジアを中心に信頼性のあるデータ連携基盤を構築し、日本が国際データ連携のハブとしての役割を果たすことを目指す。

今後の展望

国際的なデータ連携においては、日本は海外のデータ基盤に依存せざるを得ない状態にあります。その中で、産業データスペースの構築に向けた取り組みは、日本がデータ主導で産業競争力を高め、環境・社会に配慮した持続可能な成長を実現するための大きな転機となる可能性があります。

官民が協力して「トラスト基盤」の整備を進め、各企業がデータの信頼性を担保した上で、境界を越えたデータ活用が可能になり、新たなビジネス価値を創出できると期待されます。また、アジアのパートナー国との連携を強化することで、日本が地域のデータ流通のハブとしての役割を果たす道筋も見えてきます。

経団連が打ち出した官民の具体的アクションと普及に向けたユースケースの創出は、データスペースの利用拡大に向けた重要な推進力となり、日本全体のデジタル変革の加速にも貢献する可能性があるでしょう。ただ、その道のりは必ずしも簡単ではなく、より現実的な選択肢も含め、着実に取り組んでいくことも求められています。

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