AIと生成AI、デジタルサプライチェーン投資の最優先事項に
ガートナーが2024年10月30日公表した調査によると、AI(機械学習を含む)および生成AIが、デジタルサプライチェーン領域での投資において最も重要な分野として注目を集めています。本調査は、サプライチェーン戦略に影響力を持つ世界各地の419人のリーダーを対象に、2024年6月に実施されました。結果からは、地域、職務の種類、業界によって優先度に大きなばらつきが出てます。
Gartner Survey Shows AI and Generative AI Top Digital Supply Chain Investment Priorities
西欧ではAIへの優先度が低く、サプライチェーンにおけるデジタル技術の目標がスマート製造などのインダストリー4.0関連に集中している傾向となっています。また、IT主導の役割に比べ、ビジネス主導の役割では生成AIへの優先度が低いという興味深い傾向も浮かび上がりました。これは、IT部門がデジタル変革の先導役として生成AIを積極的に活用しようとする一方で、ビジネス部門が投資対効果の観点からより確立された技術に重きを置くためと考えられています。
ガートナーのサプライチェーンプラクティスのVPアナリストであるマイケル・ドミニー氏は、こうした調査結果について「サプライチェーン全体での伝統的なAIと生成AIへの関心は非常に高いものの、役割や地域、さらには業界によって優先度には大きな差が見られます」と述べています。「例えば、ヨーロッパの回答者は、スマート製造などのインダストリー4.0に関連する技術に重点を置く傾向が見られました。一方、業界ごとに見ても、ロボットや機械学習の導入が特に注目されており、現時点では生成AIよりも即効性のある投資と見なされています。」
地域別のデジタルサプライチェーン優先度の相違
調査結果において、デジタルサプライチェーンへの優先度は地域ごとに異なる傾向が見られました。北米と西欧では顕著な違いが確認されています。
- 北米では26%の回答者がAI(機械学習を含む)を最優先事項としていますが、西欧では14%にとどまっています。この差は、北米がAIの活用に積極的である一方で、西欧はインダストリー4.0の目標達成を重視するためと考えられます。
- 製造業におけるロボット導入を最優先としたのは、西欧では14%に達しましたが、北米ではわずか1%にとどまっています。これも、産業構造の違いや地域ごとの技術への期待感の違いを反映しているといえます。
- 地域的な優先度の違いは、業界の特性とも密接に関連しており、製造業の割合が高い地域ではAIや生成AIの優先度が低くなる傾向があります。製造業が集積する地域では、ロボットや自動化技術の導入が急務とされ、AIや生成AIはやや後回しになっている現状が浮かび上がりました。
「地域別の優先度の違いは、サプライチェーンテクノロジーのロードマップ策定に重要な示唆を与えます。多地域にまたがるサプライチェーンや事業運営を持つ企業にとっては、地域ごとにデジタル技術への投資を最適化することが、より効果的な戦略になるかもしれません」とドミニー氏は指摘しています。
職務別の優先度の差異:ビジネス部門とIT部門の意識のズレ
組織内の役割に応じた優先度の違いも浮き彫りとなりました。生成AIを最優先事項としたのは、IT関連職が28%に対し、ビジネス関連職はわずか12%にとどまりました。この差は、生成AIがコアなサプライチェーンプロセスに直接的に結びつく技術であるかどうかに対する評価の違いを示していると考えられます。
「ビジネス主導の役割では、確立された技術を優先する傾向が強く、生成AIの投資利益率(ROI)について懐疑的な見方が根強いようです。ビジネスリーダーは、生成AIのユースケースがまだ具体性を欠き、サプライチェーンの主要プロセスへの適用に対して即効性が乏しいと感じている可能性があります」とドミニー氏は述べます。「それにもかかわらず、小売業、産業機器製造業、高度技術製造業といった複数の業界では、すでに生成AIを最優先の投資項目として位置づけている例もあります。」
このように、IT部門とビジネス部門での意識の差は、企業内での生成AI導入のスピードやアプローチに影響を及ぼす可能性が高いといえます。
デジタルサプライチェーン戦略の今後:柔軟なアプローチの重要性
今回の調査結果は、デジタルサプライチェーン戦略を策定する際に、地域や業界、組織の役割に応じた柔軟なアプローチが求められることを示唆しています。たとえば、北米や西欧のように地域によってデジタル技術の優先度が大きく異なる場合、各地域のニーズに応じた投資が企業全体の効率性を高める可能性があります。さらに、生成AIの活用が先行する業界や地域では、先進的なユースケースに基づいた実証実験が進んでおり、こうした実績を参考にすることで、導入効果の見極めがより明確になるでしょう。
出典:ガートナー 2024.10.30