経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 バイオ小委員会は2024年8月19日、バイオエコノミーを基盤とする新たな産業構造を描いた「バイオ政策のアクションプラン」を公表しました。
この中で、特に「バイオものづくり」に焦点を当て、持続可能な経済成長と社会課題の解決に寄与することが期待されています。この記事では、バイオものづくりの技術的背景や産業構造の見通しについて取り上げたいと思います。
バイオものづくりとは
バイオものづくりとは、微生物や植物などの細胞を利用して、化学素材、燃料、医薬品、食品などの有用物質を生産する技術です。
具体的には、遺伝子技術を活用して細胞内の遺伝子やゲノムを操作し、物質生産の効率を高めることが可能です。
例えば、クモの糸と同じタンパク質を微生物で生産することで、高機能素材を作り出す技術や、パーム油を原料に微生物を利用して生分解性プラスチックを作る技術などがその一例です。
バイオものづくりが可能となる技術的背景
バイオものづくりが実現する背景には、合成生物学やゲノム編集、DNA合成技術の飛躍的な進歩があります。過去10年でDNA合成コストが劇的に低下し、ゲノム編集の精度も向上しました。
さらに、AIやIT技術の発展により、細胞の代謝経路や遺伝子の設計が効率的かつ迅速に行えるようになっています。
こうした技術の進化により、バイオものづくりの商用化が現実味を帯びてきており、新しい生産プロセスを実装するための「スマートセル」と呼ばれる高度に設計された細胞が活用されています。
このスマートセルは、微生物の生産性を飛躍的に高めることができ、例えば化石燃料に代わるバイオ燃料や、高機能なバイオマス由来の素材の生産を可能にしています。これにより、産業全体が持続可能な形へと移行する道が開かれつつあります。
バイオものづくりの産業構造
バイオものづくりの産業構造は、上流での微生物・細胞設計から、下流の培養・発酵技術、そして最終製品の生産に至るまで、複雑なバリューチェーンで構成されています。
特に、微生物・細胞設計プラットフォームの技術が、バリューチェーン全体の付加価値の源泉となります。こうしたプラットフォーム技術を持つ企業は、素材や燃料、食品などの最終製品を生産する企業との連携を深め、社会実装に向けた動きが加速しています。
一方で、バイオものづくりはまだ確立されたビジネスモデルが存在しないため、企業間の連携や規制の整備が重要となります。特にAIや自動化技術を活用し、培養プロセスの効率化や大量生産の実現が課題となっています。こうした産業構造の中で、日本は独自の技術力を生かし、世界市場での競争力を高めることが期待されています。
バイオ政策のアクションプラン
日本政府は、バイオ政策の一環として「バイオものづくり」に注力しています。政府は2つの大規模なプロジェクト、GI基金バイオものづくりプロジェクトとバイオものづくり革命推進事業を中心に、微生物・細胞設計プラットフォームの整備と、バイオ由来製品の早期社会実装を進めています。これにより、バイオものづくりのコストを既存製品の1.2倍程度に抑え、2020年代半ばには市場で競争力を持つ製品の展開が期待されています。
具体的な取組では、国内のバイオファウンドリ拠点を整備し、生産プロセス開発と人材育成に力を入れています。これにより、国内外のバイオエコシステムの強化が進み、持続可能な生産体制の確立に向けた歩みが加速しています。
バイオものづくりによる持続可能な経済成長へ
バイオものづくりは、サーキュラーエコノミーを実現し、持続可能な経済成長に大きく貢献する技術とされています。特に、CO2を原料とする微生物の活用や、廃棄物を再利用する技術は、環境負荷を大幅に低減すると同時に、エネルギーや素材の安定供給を実現する可能性があります。
また、バイオ由来製品の市場が拡大すれば、国内外の市場における新たな成長の機会が広がります。政府と産業界の連携によって、バイオものづくりの社会実装が進み、脱炭素社会の実現や経済安全保障の確保が期待されています。この動きは、社会課題を解決しつつ、経済成長を同時に達成するための重要なステップとなるでしょう。