北海道半導体・デジタル関連産業振興ビジョン
北海道庁は2024年3月27日、「北海道半導体・デジタル関連産業振興ビジョン」を公表しました。
ラピダス社の立地という好機を最大限に活かし、半導体の製造、研究、人材育成等が一体となった複合拠点を実現するとともに、食や観光、再生可能エネルギーなど本道の強みである産業振興と合わせて、本道経済全体の成長に結びつけていくため、オール北海道で目指すべき今後の指針と位置づけています。
2024年度から2033年度の10年間、当初5年間を重点期間とし、情勢変化を踏まえて適宜見直していくとしています。
本ビジョンでは、「次世代半導体をトリガーに、世界に挑む北海道」というキャッチコピーを掲げ、「半導体関連産業の集積」、「イノベーションの創出」、「人材の安定供給」、「地域経済の活性化」という4つの方針の下、各般の施策を戦略的に推進することとしています。
次世代半導体の意義
2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略など、世界情勢は大きく変化しています。政府では「半導体・デジタル産業戦略」を改定するなど、半導体関連産業の復活に向けた各種の取組を推進しています。
次世代半導体は、さまざまなイノベーションをもたらし、日本の半導体産業の再興・発展やデジタル化、経済安全保障の鍵となる中核技術となります。政府は「次世代半導体プロジェクト」として、次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取組を公表しています。
回路線幅の微細化(2nm以下)により高集積化や高機能化を実現する次世代半導体は、量子コンピュータやAIなどさまざまなイノベーションをもたらし、我が国の半導体産業の再興・発展やデジタル化、経済安全保障の鍵となる中核技術と位置づけられています。
半導体トップメーカーを有する米国、韓国、台湾、ドイツにおいて開発が加速、また、日米間においても、首脳・閣僚レベルで半導体に係る協力が進展しています。
2030年代には最先端ゲーム機や自動車に搭載される半導体チップは次世代半導体に置き換わる可能性があるなど、今後、活用の範囲が広がるとともに、需要も大きく拡大すると見込まれています。
ラピダス社の次世代半導体プロジェクト
次世代半導体のプロジェクトが世界各地で進む中、注目されているのがラピダス社の動きです。
ラピダス社は、2023年2月28日に次世代半導体の製造工場の立地を千歳市に決定しました。
そして、IBMとの2nm半導体の共同開発パートナーシップの締結や欧州トップレベルの半導体研究開発エコシステムを形成するimecとの協力覚書の締結など国際連携を展開し、2025年のパイロットライン稼働、2027年の量産開始に向けてプロジェクトを進めています。
ラピダス社立地に伴う道内経済への波及効果も期待されています。(一社)北海道新産業創造機構(ANIC)が2023年11月21日に公表した「Rapidus株式会社立地に伴う道内経済への波及効果シミュレーション」では、2023年度から2036年度までの14年間で、IIM-1と2の両方が量産を行った場合、経済波及効果の総額は18.8兆円と試算しています。
北海道庁がめざす姿の実現に向けては、まずは、ラピダス社が進めている次世代半導体製造拠点の整備事業を成功させることが何よりも重要となっています。
北海道デジタルパークの展開
ラピダス社が千歳市において製造拠点の整備を進める次世代半導体をトリガーに、道内のデジタルインフラを成長基盤として、半導体やデジタル関連産業の集積を加速し、すべての産業へのDX化を進める「北海道デジタルパーク」を全道に展開していく方針です。
半導体産業をはじめとするデジタルインフラを成長基盤として、本道に優位性のある農林水産業や観光業などのスマート化を図るととしています。また、ラピダス社の立地を契機とした投資や雇用、関係人口の拡大などの効果を積極的に取り込み、地域の魅力をさらに伸ばす原動力にし、本道全体の経済活性化を図る方針です。
推進体制と目標、今後の展望
本ビジョンの進捗管理は、北海道次世代半導体産業立地推進本部で実施。本ビジョンの推進にあたっては、行政や(一社)北海道新産業創造機構(ANIC)をはじめとする経済団体、企業、教育機関、支援機関等と緊密に連携、道民の理解と共感を得るよう努めるとしています。そして、めざす姿の実現に向けた進捗状況を定期的に把握し、公表していく方針です。
北海道庁では、2023年に半導体関連企業の出荷額を1兆3,162億円を目標値としています。
今後、ラピダス社の進出に伴う半導体関連企業等の立地や、次世代半導体やデータセンター・AI等のデジタルインフラを活用するデジタル関連産業の道内への展開の動向などを注視しながら、受入のために必要となり得るインフラ整備等に関する課題について、関係機関等と連携して検討していく方針です。
ラピダス社の進出に伴う半導体関連企業等の立地や、デジタルインフラを活用するデジタル関連産業の道内への展開が進むとさまざまな整備が必要となります。
・新たな需要に対応するための工業団地や用排水施設、周辺道路などのインフラの整備
・産業集積を図るための交通インフラの整備
・半導体製造に係る部素材輸送のための物流拠点の整備
・経済効果を全道にひ益させるための交通ネットワークの整備
・国内外ビジネス需要等に対応する航空ネットワークの充実
・高度研究人材、オペレーション人材のための住環境の整備
・交流人口、関係人口の拡大に対応するための宿泊施設の整備
・国内外から来道する技術者の子どもに対する教育環境の整備
ラピダス社の立地を契機とした投資や雇用、産業の拡大は、北海道のみならず、日本の産業にも大きなインパクトをもたらすことが期待されています。
半導体やデジタル関連産業が地域の産業などと結び、複合拠点と道内各地の地域拠点がデジタルインフラなどを介して有機的につながり、半導体エコシステムを構築することで、国内、さらには世界に向けて、日本の半導体の国際協力を占う上でも注目される取り組みとなるでしょう。