電子書籍市場における印刷会社の存在感
先週(7月8日)に電子書籍の見本市「デジタルパブリッシングフェア2010」に参加してきました。私自身、本イベントには始めての参加です。電子書籍関連の展示コーナーでは、大日本印刷、凸版印刷、モリサワ、ボイジャーなどが並び、本当にたくさんの人で溢れかえり、電子書籍サービスへの関心度の高さが伺えました。また、NECや富士通などのコーナーでもAndroid端末や電子ペーパが並んでおり、電子書籍ビジネスにおいての端末の勝者の行方も気になるところです。
本イベントの時期に大きな電子書籍団体発足の発表がありました。大日本印刷と凸版印刷の印刷大手2社は7月9日に「電子出版制作・流通協議会」の設立を発表しました(関連記事)。本協議会は、電子書籍関連の制作会社や端末メーカーなどで構成されます。7月27日に正式に設立され、出版業界と密接に連携しながら、電子書籍市場における制作や規格の整備をベースに、オープンな日本独自のモデル構築を目指すとのことです。
今回の協議会の設立で注目される点は、競合関係にある印刷大手2社が発起人であるということです。電子書籍ビジネスにおいては、まだ勝者が混沌としており、印刷業界の大手が手を組み、協議会をつくり政策や規格において印刷業界が電子書籍市場の主導権を握りたいという思惑が見え隠れしています。
東洋経済の「高まる大日本・凸版の存在感、電子書籍で印刷会社にすがるしかない出版社の実態」では、印刷会社が電子書籍配信のプラットフォームの成否を決めるキープレーヤーであり、印刷会社こそが、日本で電子書籍配信を行うには最もいいポジションにあるという点が指摘されています。
また、凸版印刷は、ソニー、凸版印刷、KDDI、朝日新聞社の3社と組み、7月1日、「電子書籍配信事業準備株式会社」を設立したことを発表しています(関連記事)。
印刷会社は、これまで電子書籍のビジネスを全くやっていなかったわけではありません。大日本印刷は、傘下に「モバイルブック・ジェーピー」があり、5月末時点で約5・ 3万の書籍タイトルを扱っています。また、凸版印刷は、傘下に「ビットウェイ」があり、4万の書籍タイトルを扱っており、いずれも業界最大手になります。これらのノウハウを、今後急速に拡大していく電子書籍ビジネスでも展開していくことは自然な流れとも捉えることができるでしょう。
また、電子書籍のフォーマットの規格においても、印刷会社の影響力が出ています。総務省、文部科学省、そして、経済産業省と省庁連携で取り組んでいる「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」では、6月28日に、「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の報告書を公表しました。
この中で議論されている重要なことは、「中間フォーマット」です。様々な端末で「利用」「提供」できるようにするためには、「国内ファイルフォーマット(中間(交換)フォーマット)の共通化が重要であるとし、XMDFとドットブックとの協調が中間フォーマットの統一規格策定において、大きな位置づけにあるとしています。ちなみに、凸版印刷では、「ビットウェイ」でXMDFを採用しています。
しかしながら、現時点では、XMDFのほか、.book、EPUBなどフォーマットが乱立しており、様々なフォーマットに対応できるビューアーが重要になってきます。凸版印刷の場合、「東京国際ブックフェア」で目立つところで展示をしていましたが、「マルチフォーマット展開」を強調しています。凸版印刷ではInDesignなどのDTPで使用しているデータを中間フォーマットとしてXMLデータ化し、それを各種の電子書籍フォーマットに変換していくソリューションを提案しています(関連記事)。
大日本印刷のブースではマルチプラットフォームを強調しています。iPhone/iPad、Androidに対応するアプリ「Image Viewer」を展示し、多様な端末に向けて配信を行っていく点がポイントでしょう。
電子書籍ビジネスの市場に参入するのは、出版社、印刷会社、取次ぎ事業者、通信事業者/ISP事業者、著者、EC事業者、端末事業者など、様々な可能性が考えられます。電子書籍ビジネス市場での勝者はまだ混沌としていますが、少なくとも印刷会社の存在感は非常に大きなものになると思われます。同時にビジネスモデルや収益構造の大きな転換も求められることになるのではないかと感じています。