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小田光康小田光康さんの『パブリック・ジャーナリスト宣言。』を読了。ご存知の方も多いと思いますが、小田さんはライブドア主導で始められた市民ニュースサイト「PJニュース」の編集長を務められている方で、その立ち上げと運営にも深く関わっていらっしゃいます(ちなみに現在、PJニュースは「株式会社PJニュース」という組織で運営されており、ライブドアからは独立した存在となっています)。その小田さんが、これまでのPJニュースの経緯と、パブリック・ジャーナリズムという現象について解説するという内容です。

※ 「一般市民」が取材を行い、記事を作成するという現象には様々な呼び名があります。しかし「市民」という日本語には政治的なニュアンスが付いてしまっている、という小田さんの意見に賛成し、ここでは「パブリック・ジャーナリズム」という呼び名を使用します。

パブリック・ジャーナリズムというスタイルが、既存のマスコミ型ジャーナリズムに取って代わるのかどうか。あるいはパブリック・ジャーナリズムと一言に言っても、どのような運営方法が最適なのか。それはまだまだ正解のない問いでしょう。本書で紹介されている小田さんご自身の考え方、PJニュースの運営方法についても、個人的に賛成できない部分(否定ではなく)がいくつかあります。しかしこの本を読んで強く感じられることは、従来型のジャーナリズムが確実に終焉に近付いている、という印象です。

どんな分野にも、変化と停滞が交互に訪れます。変化の時代を生き抜いたシステムが、その後の停滞の期間を支配し、古くなってまた新たな競争が始まる。サイクルの長さに違いはあれど、その繰り返しです。これまでジャーナリズムを支配してきたのは、組織的なマスコミ型の手法でした。それは本書でも指摘されている通り、大規模な情報発信を行うのに膨大なコストがかかる時代には最適な仕組みだったのでしょう。しかしインターネットを通じた安価な情報発信が可能な時代には、組織化が必ずしも最適とは言えません。良い悪いではなく、単純に古い時代用にチューンナップされた手法だということです。

時代は変わりつつあります。「ネットで個人がニュースを配信すれば良い」というわけではありませんが、従来型の仕組みにも明らかなほころびがあることを『パブリック・ジャーナリスト宣言。』は指摘してくれます。重要なのは、新たな時代に何が最適なのかを模索すること――小田さんの場合、それが(現時点では)「PJニュース」という手法なのだ、ということでしょう。

残念ながら、既存のマスコミ型ジャーナリズムに関わる人々の中には、古いシステムにしがみつくつもりの人がいるようです。特に本書に登場する「記者クラブ」をめぐるやり取り(PJニュースは多くの記者クラブから締め出され、取材の機会を制限されている)からは、何とかよそ者を排除しようという姿勢が見て取れます。残念ながら、古い体制を守ろうとすればするほど、その崩壊を早めてしまうというのが過去のパターンではないでしょうか。その意味で、僕はこの本から「パブリック・ジャーナリズムの発芽」ではなく「マスコミ型ジャーナリズムの終焉」の方を強く感じてしまった次第でした。

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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