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プロジェクトが成功するとはどのようなことなのでしょうか。

オルタナティブブログでも『プロジェクト』について多くの意見が交わされています。『プロジェクト』と言うとまずは大木さんトラパパさん森崎さん、が思い浮かびますが、その他多くのブロガーさんからも色々なことを学ばせていただいております。私が参画するプロジェクトというと主に情報システムの開発プロジェクトになりますが、その現場でよく用いられるPMBOKの考え方に囚われず『プロジェクトの成功』について考えてみたいと思います。

プロジェクトそのものの成功

まず最も考えやすいプロジェクトの成功とは、プロジェクトが成功したことになります。いや、意味不明ですね。つまり、やるべきこと、費用、時間、品質を守ってプロジェクトが終わったということになります。そのためにはプロジェクトを始める前に、いくらで、いつまでに、何をやるべきで、どれくらいの品質でやるべきなのか決まっていないといけません。プロジェクト運営のための体制や仕組が整えられており、遂行前にプロジェクトのゴールが決められていて、遂行中、遂行後に評価ができる状態になっていて初めて成功・失敗を言えることになります。

メンバー個人としてのプロジェクトの成功

プロジェクトが成功したとして、プロジェクトメンバーが不幸な思いをしていて良いでしょうか。家に帰れない、体調を崩した、業界に絶望したなどなど、悲惨なものも考えられます。他にも、技術的な向上がなかった、タスクを意識しないでだらだらとその場でふられた仕事をし続ける悪い癖がついてしまった、手抜きを覚えてしまったなどの悪い要素があります。精神論的にがんばり、技術的に得るものがあったとしても「プロジェクト」の進め方でないような場合は成功と言い難いかもしれません。人間は部品とは違いますから、プロジェクトメンバーとして自分の今日のゴールは何か、プロジェクトのゴールまでに何をしなくてはならないかということを意識しつつ日々の職務を遂行できたのならば、そのプロジェクトは自分的に成功であったと言えるでしょう。

マネージャー個人としてのプロジェクトの成功

プロジェクトマネージャーが全然仕事をしなくてもプロジェクトが成功することがあります。メンバーが優秀な場合や目標が緩い場合です。プロマネから見た場合にそれを成功と言ってよいかどうか微妙ですが、ここでは失敗としておきたいと思います。プロマネとしての役割を果たし、マネージメントに関する知識や経験等の得るものがあってこその成功ではないでしょうか。

と、言ってもプロジェクトXのように失敗⇒地獄⇒逆転⇒成功というドラマティックな筋書きは不要です。失敗に通じる芽を芽のうちに摘み取り、最後まで大きな問題を起こさずにプロジェクトを終えられたとしたらそれはプロジェクトの成功でもあり、マネージャーとしての大成功であるでしょう。マネージャー視点に立てば、問題には予算や期間以外にも人間同士のいざこざやメンバーのモチベーション管理などが関係してきますので、そのあたりでも問題を起こさないようにするには大変な努力が必要とされるでしょう。

なお、プロマネの資質をいかに一発逆転ホームランを打てるかというところに求める人も少なくありません。そして某オルタナブロガーさんのように一発逆転ホームランを打つことが生業になりつつある方も実在するようです(笑)。が、世の多くのプロマネにしてみれば代打、継投を駆使して1-0で勝つような、波乱のない試合ができることがプロマネの資質であり、そういった試合をすることがマネージャーとしての成功であると思います。では一発逆転ホームランを打ったら。もちろんそれは大成功です(笑)。

企業としてのプロジェクトの成功

メンバーも、マネージャーも、「参加してよかったね」「俺達スキルアップしたね」とすっかり意気投合できるプロジェクトがあります。が、プロジェクトそのものが成功していなかった場合、そのプロジェクトを請け負った会社としては失敗になります。赤字が出たり、品質が守れずに賠償につながったりということもあるでしょう。また、プロジェクト単体で見た場合に成功していても、アフターフォローや関係者同士の人間としての相性等により次の仕事がなくなってしまう場合もあるかと思います。そういった場合、プロジェクトは確かに成功しているのですが、会社としてはそれを成功であると位置づけにくいかもしれません。

他にも、メンバーやオーナーにのみプロジェクトの経験・知識が蓄積されてしまい、会社に対してフィードバックがないというような場合があります。死ぬほど頑張ったので記録が残せませんでした、なんとか記憶を頼りに総括書を書きました、というのでは寂しいですね。そこに着目すれば、大火傷をしたことが社内で教訓として語り継がれ再発を防止したようなケースは、会社から見たら成功(というか結果オーライ)だったと言えます。

オーナーとしてのプロジェクトの成功

そのプロジェクトの成果物により、オーナーの課題事項が取り除かれた場合がオーナーとしてのプロジェクトの成功と言えます。スコープで定められた事を安く、早く、実施できたとしても、それが効果を発揮しなくては意味がありません。日経コンピュータの「動かないコンピュータ」シリーズのようなものでしょうか。メンバーも嬉しい、マネージャもよく面倒を見た、受けた会社も黒字を出した、それでいて発注元が有効活用に失敗したというのでは関係者もがっかりです。

プロジェクトに関係したすべての人は、自分が努力した成果が誰かを幸福にすることを望みます。しかしながら日本の多くのプロジェクトでは、一介のメンバーが「こんなのはオーナーのメリットになりません!」と声を上げたり、その声をオーナーに届けてもらう事は難しいでしょう。これは上で述べた「メンバー個人としてのプロジェクト成功」を危うくする事であり、どげんとせんといかんことです。しかしメンバーそれぞれが思いのままを口にするとマネージャにメンタル上の問題が生じたり、プロジェクトが瓦解してしまったりと様々な問題を引き起こします。

バンドオブブラザーズという戦争映画(正しくはドラマシリーズ)ではそのあたりのジレンマがとても上手に描かれており、普段からシステム開発に携わっておられる方々が見たら様々な事を感じる名作であると思います。と、同時に「このテーマって第二次大戦から解決してないのかよ!」という気持ちにもなりますので精神的に安定している時にご覧になることをお薦めいたします。特にオープニング曲を含めたBGMがとても良いです。

社会としてのプロジェクトの成功

テロや犯罪といった反社会的なプロジェクトというものもありますので、その成功は喜ぶべきことではありません。他にも環境破壊を伴う経済活動や、倫理的なコンセンサスが得られていないような研究開発など色々な事例があると思います。ただしこれは人が全知全能でない以上は非常に難しい問題で、みんなが良かれと思って働いていたらバブル景気になって崩壊して大変な事になってしまったということもありますし、反対に失われた10年のおかげで大きく進歩したような分野もあります。メンバーもマネージャーもオーナーも意図的に成功や失敗を引き起こす事が難しいものだと言えるでしょう。

(おまけ)傍から見たプロジェクトの成功

傍から見て、あそこはうまく行っていそうだな、だめそうだなというを感じる事があります。危なげなプロジェクトが独特のオーラを発している事をプレコックス感が漂っていると言います(嘘です)。いやしかし、本当に感じる事があり、そして当たっている事があるので馬鹿にできません。プロジェクトの内実はともかく、傍から見てうまくやっていそうに見えることも重要なポイントであるように思います。情報システムの開発なら内勤なので人目を気にしませんが、スポーツの特訓などでは順調なように見せないと相手に舐められる事もありますので大切なことであると思います。

と、このように見てみるとプロジェクトと一口に言っても様々な捉え方ができます。例えば自分が遂行するプロジェクトはそれがすべてであるように感じますが、オーナーの視点からすれば、ある成果物を外部に発注し、それにより何かの目的を遂げるという1つのプロジェクトの一部分にすぎません。私が進めるプロジェクトが成功であっても、その仕様が危うげなものであればオーナーのプロジェクトは失敗となります。仕様を決めるところから自分の仕事であれば良いのですが、オーナーから提示された仕様通りに作るだけ、ということもあります。

そういったプロジェクトで迷いを感じつつ業務を遂行するメンバーのフォローは重要な問題となっています。その解決策として、このように多くの切り口でプロジェクトの成功を捉える事が効果的であるように思います。自分は納得行かない時は、マネージャもオーナーも会社も喜ぶからいいじゃないか、というように考えてみるのはどうでしょうか。また、作り上げる中身の事は脇に置いておいて、プロジェクトを遂行する技術にこだわって仕事を進めたり、後進に緻密な記録を残すということをテーマにするというのも良いんではないでしょうか。

色々と「成功」を挙げましたが、自分なりの成功を定義して、それをクリアする事が一番の成功だと思っています。

yohei

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山口 陽平

山口 陽平

国内SIerに勤務。現在の担当業務は資金決済法対応を中心とした資金移動業者や前払式支払手段発行者向けの態勢整備コンサルティング。松坂世代。

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