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本日(5/10)、第2回目の配信が始まりました。
マーケティングで極めて重要な「お客様の課題をいかに理解した上で、お客様に価値を届けるか」という点について、普段考えていることをお話しました。
問題提起し、その問題点を挙げる一方で、利点も説明する、ということを繰り返している内容になっていますが、これはこの問題がいかに難しいかという裏返しでもあります。
皆様のご感想をいただければ幸いです。アクセスはこちらで。
下記は原稿です。前回も書きましたように、この原稿を書いて一旦覚えた後、箇条書きにした上で、収録中は箇条書き原稿を読んでいるため、実はこの通り話してはいないのですが、ご参考まで。
---(以下、原稿)---
『マーケティングが分かると、ビジネスが見える』
■第二回■ お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考えるこんにちは、永井孝尚です。
私は日本IBMのソフトウェア事業部で、マーケティング戦略を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題して、4回に渡ってお話させていただいてます。
第一回目は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目は、「マーケティング・プロフェションの皆様へ」
をお伝えしています。■ ■ ■ ■
第二回目の今回は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」です。
今回、お伝えしたいのは次の3点です。
「お客様の課題とは、そもそも何なのか?」
「市場調査のジレンマとは何か?」
「どのような価値をお客様に届けるのか?」
です。■ ■ ■ ■
まず、言うまでもなく、マーケティングでは、お客様の課題を正しく捉えていることが大切です。
お客様の課題を考えているつもりの場合でも、実は製品の観点で捉えている場合があります。例えば、今から40年前、顧客志向の意義を唱えたセオドア・レビットは、「顧客は1/4インチのドリルが欲しいわけではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」と言いました。
これは、お客様視点のマーケティングを実践する上で、我々が常に意識しておくべき言葉であると思います。
確かに、「穴を開けたい」、という課題がドリルを買うお客様の動機である訳で、お客様は必ずしもドリルという製品自体を必要としている訳ではありません。
従って、必ずしもドリルを購入いただくことだけが解決策ではありません。
「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題を解決する方法は、ドリルを購入いただく以外にも沢山あります。例えば、穴を開けるサービス自体をご提供する、という方法もあるでしょう。
しかし残念ながら、「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題を理解せずに、自分達のドリルの性能を一方的に語るマーケティングが多いのも、残念ながら現実です。
■ ■ ■ ■
さて、お客様の課題を理解する方法の一つに、市場調査という方法があります。
しかし、市場調査にも大きなジレンマがあります。
市場調査レポートが出た時点で、既に市場が変化している可能性がある、というジレンマです。
世の中で出回っている市場調査レポートの多くは、過去のデータに基づいて分析を行っています。
例えば、市場規模予測のほとんどが、現在の傾向が今後しばらくは続くという仮定のもとで、現在の延長線上に未来を予測しています。しかし、市場が大きく変化する場合は、未来は現在の延長線上にはないのです。
■ ■ ■ ■
さて、ここでそもそも市場調査レポートとは何なのか、考えてみましょう。
マーケッターにとって市場調査レポートは、市場という地形を歩くための「地図」に相当します。
知らない場所を歩くためには、地図は必須です。
しかし最近の市場では、この地形が頻繁に変わっています。
それも、単に新しい建物が建っている、というレベルではありません。目標となる山がなくなったり、障害物となる谷が出来ていたり、新しい市場である海が急に広がっていたり、という地殻変動が頻繁に起こっています。
それでは、市場調査レポートは無意味なのでしょうか?私は、むしろ逆で、現代において市場調査レポートはますます重要性を増していると考えています。
世の中が激しく動いているからこそ、市場を客観的に把握し続けていくことが重要なのだと思います。
また、何故変化が起きたかを考察することで新しい洞察を得ることができ、アクションに結びつけることができます。従って、地殻変動前・後の地形を理解するためにも、継続性を持った市場の把握は極めて重要です。
また、市場調査レポートを分析して市場の変化を見極めることは必要ですが、市場調査だけでお客様の課題を理解しようとはせずに、必ず自分の目で実地検証することも必要です。
■ ■ ■ ■
さて、お客様の課題が明確になった次は、どのようにお客様に価値をお届けするかを考える必要があります。つまり、商品やサービスを考える段階です。
ここで、我々が考えなければならない点がもう一つあります。
「プロダクト・アウトは悪なのか?」、という点です。
現在、顧客中心主義がまっさかりです。
確かに、お客様を中心に考えることは非常に大切なことです。しかし、その対極にある「プロダクト・アウト」を全て悪である、とする考え方は物事を単純化し過ぎなのではないでしょうか?
例えば、10年前、世界中で4000万個を売った「たまごっち」を例に考えてみましょう。
たまごっちは売れ始めた当初、営業からお客さんの要望として、「たまごっちに一時停止ボタンをつけて欲しい」という要望があったそうです。確かに、手が放せない状態の時に世話をしなければならないのは、ユーザーからするとかなり困る話なので、これは真っ当な要望です。
これに対して、開発リーダーは、
「そもそも、飼い主の言うことをきかないのがペットだ」
として、「世話をする面倒くささ」という当初のコンセプトを貫き、一時停止ボタンは入れませんでした。たまごっちが爆発的ヒットになったのも、このコンセプトを貫いたからではないでしょうか?
お客様を中心に考えることは大切ですが、全てお客様の言う通りに行うことが、正しいとは限りません。
カルロス・ゴーンさんも、「5年後の車について消費者は答えを持たない」と語っています。
お客様に対して、お客様が気が付かなかった新しい商品やサービスを提案することは、企業の責任でもあります。このためには、企業が商品やサービスに拘り続けることも必要なのではないでしょうか?
忘れてはいけないことは、商品やサービスを中心に考えてはいけない、ということです。
商品やサービスに拘り続ける視点の先に、常にお客様の姿を見ているかどうか、が大切なのではないでしょうか?
■ ■ ■ ■さて、第二回は「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」というテーマでお送りさせていただきました。
次回は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」というテーマでお送りいたします。
どうもありがとうございました。
---(以上、原稿)---
関連リンク:Podcast配信開始:「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
ちょっと古い話ですが、5月5日(土)に、うちの合唱団の第二回目の単独演奏会を行いました。
いつも感じるのですが、演奏会の準備は数ヶ月かかりますが、当日はあっという間に過ぎていきますね。
ところで、今回サポートをいただいたステージ・マネージャーが、素晴らしい人でした。ちなみに、ステージ・マネージャーとは、演奏会当日に、指揮者や演奏者が演奏に集中できるように、全て管理する現場監督のことです。
まず、この方、ケータイではなくパソコンでメールを使っているにも関わらず、なぜかメールの返事が非常に迅速です。30分で返事が来ます。
リハーサルでの行動が非常にキビキビしています。指揮者の動作を先読みして、指揮者の指示の前に動いています。
指揮者から「ここの演奏の部分、どう思う?」という質問がいきなり飛んできても、即答します。つまり、常に指揮者の立場で考えています。
常に目立たぬようにでしゃばらず、指揮者や演奏者のために黙々と働き、演奏を成功させるためのサポートは完璧、そんな縁の下の力持ち、といった感じの仕事振りです。
これだけでも素晴らしいのですが、演奏会打上げでは、団員全員と初対面にも関わらず、積極的に打ち解けて、音楽への思いを情熱的に語ります。私も、この人の人間的魅力には圧倒されました。
残念ながら、私は終電に間に合うように帰りましたが、朝まで団員と語りあっていたようです。
まさに、先日のエントリーで書いた共感力の達人ですね。
このような人でありたいものです。
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