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田坂広志著「プロフェッショナル進化論」から学ぶ、ブログの心得

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田坂広志著「プロフェッショナル進化論」の中に、「パーソナル・メディアの戦略」 (p.86-109)という章があります。

本書の出版は6年前の2007年。ちょうどブログが普及し始めた時期です。

改めて読み直しましたが、ここに書かれていることは、まさにブログ執筆で求められる心得が網羅されていることを実感しました。

引用しながら、ご紹介していきたいと思います。

---(以下、引用)---

第一の戦略 まず、「パーソナル・メディア」という「修練の場」を持つ

メディアを通じて、定期的・継続的にメッセージを発信し続けることは、たとえ短いメッセージであろうとも、大きな努力が求められる。

しかし、このことは「苦労が多い」ということを述べているのではない。

「腕を磨ける」ということを述べている。

なぜなら、「個人シンクタンク」としての「メッセージ力」は、具体的なメディアを通じてメッセージを発信し続ける修練以外には、鍛える方法がないからである。

---(以上、引用)---

私たちが普段、仕事で書くビジネス文書やメールとは異なり、ブログは不特定多数の読み手によって読まれます。

「不特定多数の読み手に対して文章を書く」という経験は、普段はなかなか経験できません。

私は7年前に初めてブログに投稿した時、「誰が読んでいて、どんなコメントが来るかわからない」と考えて、とても緊張したことを今でも覚えています。

不特定多数の読み手を意識した文章を書き続けることは、確かに「腕を磨ける」貴重な機会でもあります。

私はこれまで7年間で2000回以上ブログで投稿してきましたが、確かに繰り返すことで自分のメッセージ力を高めることができたのではないかと思います。

考えてみればブログがなかった頃、このように自分の意見を不特定多数に情報発信する手段は極めて限られていました。今は非常に簡単に活用することができるようになった訳ですね。

 

---(以下、引用)---

第二の戦略 最初は、「メッセージ発信」よりも「知識ポータル」の戦略に徹する

…「多くの読者が読んでくれる」ような価値ある意見や主張を語れるようになるためには、それなりの修練が必要である。

…「個人シンクタンク」のパーソナルメディアは、どこまでも、「読者にとって役立つ情報、知識、智恵を伝える」ことに主眼があるからである。

従って、「個人シンクタンク」のパーソナル・メディアの戦略においては、まず「自分の意見や主張を載せる」ことから始めることが、かならずしもベストではない。

むしろ、「読者の役に立つ情報を整理して載せる」ことから始めることが、最善策になることが多い。

---(以上、引用)---

ともすると「せっかくブログを書くのだから、思う存分、自分の意見を書くぞ!」となりがちです。

しかしブログの読み手にとって、求めているのは必要な情報が得られること。

本書では、「人類の文明が始まって数千年、この長い歴史の中で、本当に大切な智恵は、すでに、すべて語り尽くされている」だから「我々が為すべきは、言葉に『言霊』を宿すこと、その『言霊』を通じて、世の中に良き『行動』を生み出すことであると覚悟している」としています。

私はブログでは他の人やメディアの意見を引用先を明示してご紹介し、自分の経験や意見を書かせていただくことが多いのですが(このエントリーがまさにそうです)、これはまさに「知識ポータルの戦略」です。

自分の経験では、できれば1つの引用元に留まらず、複数の引用元を参照することで、新しい解釈を生み出すことができるように思います。

ここで絶対に必要なことは、引用元への敬意です。引用元はちゃんと明示し、内容を間違えないように引用することが必要です。

 

---(以下、引用)---

第三の戦略 「批評」においては、かならず「ポジティブ・メッセージ」を語る

「批評」においては、その評者の「人間性」が、恐ろしいほどに出る。

「批評とは、人をほめる特殊の技術である」

ただ「多くの読者」に届くだけではなく、「良質の読者」に届くメッセージを、発する。

「文章を書くこと」とは、究極、「人間を磨くこと」であり、「人間力を身につけていくこと」であることを、知るべきであろう。

文章を書くとき、まず、自分の内面を見つめ、そこにある「自己顕示欲」「自己愛」「劣等感」「満たされぬ欲求」を静かに見つめることであろう。

「文章の力」とは、実は、その透徹した「エゴ・マネジメント」から生まれてくる。

---(以上、引用)---

これは書き手にとって、とても厳しい言葉です。

自分が書いた文章を後でじっくり読み直すと、自分のむき出しの感情や叫びが露わに読み取れることがあります。そのような自分の内面と正対するのは辛いことです。

私はブログを書く際に、「もしこれを書くことで傷ついたり不愉快になる人が一人でもいれば、投稿しない」というルールを課しています。自分の経験では、「誰かが傷つくかもしれない文章」は、結局、自分のエゴが生み出した産物であることが多いのです。

私はここ数年間は毎日ブログを書くようにしていますが、毎日少しずつでも継続することで、いい精神修行になっているように思います。

そしてよい文章になるように念じながら書き続けていると、そのような方々が集まってくださっていることもまた、実感します。

 

またこのようなことを続けていると、他の方が書いた文章からも、その人の内面の叫びが聞こえてくることがあるのですよね。

 

---(以下、引用)---

第四の戦略 「ブロゴスフィア」でメッセージを広げていく

 

「サイトのアクセス数」や「メールマガジンの読者数」などが、その「影響力の指標」として用いられてきたが、「ウェブ2.0革命」の時代には、この発想が、古くなる。

「目に見えないコミュニティ」が生まれてきた。

---(以上、引用)---

この本が出版された2007年は、ブログによるコミュニティ全体を「ブロゴスフィア」と呼んでいました。

現代は、2007年には普及していなかったTwitter, Facebook等の新しいソーシャルメディアが生まれ、ブログのメッセージは大きく拡散していきます。

たとえば私は2011年2月に書いたこのエントリーは、投稿直後のはてブ数は4件。しかし3週間後にいきなりアクセスが急増して700件になりました。きっかけは堀江貴文さんがこのブログについてツィートし、それが拡散されたためです。最終的にツィート数1400件になりました。

ソーシャルメディアでのコミュニティは、複数階層にまたがって拡がるようになっています。

 

---(以下、引用)---

第五の戦略 メッセージに「言霊」を込めて発信する

「メッセージを広げよう」としてはならない。
「メッセージが自然に広がっていく」ようにする。

では「自然に人から人へと伝わり、広がっていくメッセージ」とは、何か?
「言霊」を持ったメッセージである。
「それを聴いたとき、心の動く言葉」である。
「智恵の宿った言葉」である。
「物語」や「エピソード」、「寓話」や「メタファー」(隠喩)などの言葉である。

文章が短いことである。

---(以上、引用)---

ブログでは、作為的な文章は通じません。本当に不思議なことですが、美辞麗句を重ねて文章を書いても、書き手の隠された操作主義的な意図は、読み手に伝わってしまうのですね。そして拡がらない。

逆に少々言い回しが間違っていたりするような文章でも、強い想いで書いたブログは読み手に伝わることが多いように思います。

自分が本当に伝えたいものは何なのか、自分の内にある気がつかない「引き出し」を発掘してみる作業が必要なのでしょう。それが読み手にとって価値があるものであれば、自ずから拡がるのではないかと思います。

 

改めて、ブログを書く際の心得を学ばせていただきました。

ご紹介した「パーソナル・メディア」の戦略は、本書で紹介されている「個人シンクタンクへの進化のための6つの戦略」の中の一つです。他の6つの戦略もたいへん示唆に富んでいます。205ページの薄い新書ですが中身は非常に濃い本です。

 

 

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