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マーケティングとは? グローバル化とは? ライフワークとは? 一緒に考えてみましょう

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2007年1月15日の投稿

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昔から不思議に思っていたCMがあります。

「歯医者さんも薦める、虫歯予防のガム」
(とか、新しい歯ブラシ、とか、新しい歯磨きとか)

「歯医者さんは、虫歯が少なくなると儲けられなくなる筈なのに、なんで虫歯予防のCMに出るのだろう?」と、以前から不思議に思っていました。

2007/1/13の日経プラスワン「私のビジネステク キシリトールを広める」で、キシリトールを日本に広めたダニスコスジャパン・マーケティング・ディレクター藤田康人さんが記事を書かれています。この記事で、その謎が解けました。

簡単に言うと、「マーケットを再定義し、新市場を創造した」ということで、この背景には、マーケティング・イノベーションのエッセンスが詰まっています。

以下、引用しながらコメントします。

「(歯科医に)キシリトールは虫歯の原因になりにくい甘味料です」と説明すると、以外にも多くの歯科医が拒否反応を示しました。「虫歯が減ったら儲からなくなる」と彼らは考えたからです」

キシリトールの最終ユーザーは一般消費者です。一般消費者にとってメリットが大きいものですが、一般消費者にとってキシリトールは無名でした。そのため、インフルエンサー(市場に影響力を与える人)として専門家である歯科医の意見を取り付けようとして、最初はうまくいかなかった、ということです。

我々のビジネスでも、インフルエンサーとの利害が一致せず、サポートを得られない、ということはよくありますが、現在成功されている藤田さんも、当初は同様の経験をなさっていたということですね。

「歯科専門商社に勤めていた大竹喜一さんと出会ったのはそんな時です。「虫歯の予防こそが歯科医の仕事であるべきだ」という大竹さんの意見が突破口になりました。「虫歯にならないために歯科医に行く」というビジネスモデルを作ればいい、とひらめいたのです。」

まさに、ここが大きなブレーク・スルーでした。「虫歯にならない」ということが、インフルエンサーである歯科医にとってどのような価値を生むのかを追求した結果、「虫歯予防」というビジネスを生んだということです。

確かに、私自身も、虫歯になって歯科医に行き、歯を削って詰め物を入れたり、最悪の場合は抜歯したりインプラントをされるよりも、自分の歯がいつまでも健康であることの方が、はるかに価値があると思います。

「フィンランドには虫歯菌の数を測定する検査機器があり、キシリトール入りガムをかむと虫歯菌の数が減るという報告があります。私はこの機器とキシリトールをセットにして「予防歯科」を提案して回りました。」

戦略として考えたビジネスモデルを実現するために、(1)必要な商材の開発し、(2)販売チャネルに大きな影響を持つ関連する人達に対して、(3)マーケティング・プロモーションした、ということです。

当たり前のことですが、商材の開発、チャネル施策、及びプロモーションは、全体のマーケティング戦略の中で大きな位置づけを占めます。

しかしながら、全体の戦略とはあまり関連しない商材開発や、個別プロモーション活動、過去のしがらみに縛られたチャネル施策が企業の中には多いのが、残念ながら現実でもあります。

この短い文章の中に、全体の戦略を、いかに商材開発、チャネル施策、マーケティング・プロモーションをお互いに関連させあって実現していくか、が書かれています。

「虫歯になって歯科医に行くのは全体の1割ほど。残りの9割の健康な歯の持ち主も対象にした医療ビジネスの方が利益は大きくなる、という発想です。」

上記で市場を再定義した結果、ユーザーの数が一挙に10倍になり、新市場を創造した、ということです。(ただし、あくまで潜在ユーザー数であり、市場規模ではないことは意識しておく必要がありますが)

「....消費者、歯科医、ガムメーカー、キシリトール生産者の我々の皆が勝者となる「マルチWin」の関係がここにあったのです。みんなが満足できる「マルチWin」のしくみをどうつくるか。商売の成否のカギはここにある、と私は確信しています。」

このような関係をいかに構築するかが、ビジネスモデル成立のカギですね。このための関係者との調整には膨大なワークロードがかかりますが、得られる成果は非常に大きなものになります。

短い記事でしたが、得られるものがとても大きい内容でした。

nagai

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永井孝尚

永井孝尚

オフィス永井代表。 著書「100円のコーラを1000円で売る方法」シリーズ(中経出版)、他。

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