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不況下でも衰えを知らない業界にはいくつかあるが、オンラインデート業界もその1つだろう。リサーチ会社のMarketdata Enterpriseは、米国における同業界が年平均7.2%で成長を続け、2015年までに17.6億ドルに達するだろうと予測している。またスタンフォード大学の研究によれば、米国でネットを通じて知り合ったカップルの割合は2009年時点で2割を超えており、同性のカップルに限定すれば6割を超えているそうだ。オンラインの出会いは既に、1つの市場を築いているのである。

しかしこの市場は参入障壁が低く、参加企業は過酷な競争を強いられており、それだけに新たなアイデアが生まれる場所となっている。大手企業の1つMatch.comを例に挙げると、同社はサービスを通じて蓄積された膨大な行動データを基に、「シナプス」という独自のアルゴリズムを開発。ユーザー自身ですら意識していない恋人選びの条件を把握して、隠れた理想の相手を紹介するという取り組みを行っている。

このようなデータ解析系のアプローチに加え、最近登場しているのが他のソーシャルメディア、中でもFacebookを活用するというアプローチだ。例えばFacebookアプリとして提供されているCircl.esは、アカウントを流用することで、新たな登録手続きの手間を省いている。またFacebook上に登録済みのプロフィール(年齢や所在地など)をベースにすることで、相性の良い候補が選ばれると共に、出会うユーザーが偽の情報を登録しているリスクが軽減される。さらに面白いのは、Facebook上の知り合いが恋人候補として表示されることを防ぐという機能だろう。つまり「デートサイトを利用している」という、非常にデリケートな情報が知り合いに伝わってしまうことを心配する必要がないのだ(こうしたソーシャルグラフの逆利用を行ってくれるサービスとして、同じくFacebookアカウントと連動させて使用するデートアプリMeexoがある)。

Facebookアプリで提供されているデートサービスとして、もうひとつYokeが挙げられる。YokeもFacebook上の情報(いいね!を押したコンテンツや聞いている音楽などが含まれる)を分析して恋人候補を挙げてくれるのだが、ユニークなのは、友達登録しているユーザーの友達から選択されるという点だ。まったくの赤の他人が選ばれるのではない、という点にはもちろん理由がある。友達の友達であれば、プロフィールに偽情報を登録しているユーザーが候補に挙がるリスクはさらに下がるだろう。さらに候補紹介の画面には「共通の友達に聞く」というボタンが設けられており、相手に声をかける前に、友達から評判を聞くこともできる。誰にも知られたくない秘密の関係を探すのでもない限り、Yokeのアプローチは利にかなっている。

実際に人間関係のネットワークを研究した各種調査によれば、恋人を探す際には「友人の友人」などといった「弱い絆」が威力を発揮するという結果が出ている(いわゆる合コンなどもこの範疇に入る場合が多いだろう)。Yokeにはソフトバンクキャピタルを始めとしたベンチャーキャピタルも出資しており、FacebookなどのSNS(正確に言えばその上に築かれた人間関係)を利用するというアプローチは、今後さらに注目が集まると予想される。

では今後、Facebookアプリがデートサービスの主流になるのだろうか?話はそう簡単ではないだろう。最大の理由は、いくらFacebookが実名と顔写真を要求しているとはいえ(さらにその運用がどこまで正確に行われているのかという問題を脇に置くとして)、オンラインとオフラインの間には依然としてギャップがあるという点だ。Facebookにおいても、オンライン上だけの知り合いでも友達として登録するという、Twitter的な利用を行っているユーザーが少なくない。その場合、当然ながらあまりよく知らない友達の友達が紹介されることになる。仮に自分がリアルな知り合いとだけつながっていたとしても、その友達が無差別に友達リクエストを送っているような場合には、やはり関係性の薄い人物が候補に並ぶことになる。

また「いいね!」などの行動は、そもそも恋人選びのインプットとして行っているわけではない。Match.comなどの独立したサービスを利用するのであれば、自分の心に正直に趣味嗜好を入力できるだろう。しかしソーシャルメディア上で、果たしてどれだけの人々が自分の本心を打ち明けているだろうか?本当は好きなアイドルの記事をリンクしたくても、他人の目を気にして、社会問題の記事ばかりに「いいね!」していたとしても不思議ではない。従ってソーシャルメディア上の情報を活用するという方法では、理想とは程遠い候補が提案されてしまうリスクがある。

Facebookのソーシャルグラフを活用するというのは優れたアイデアであったとしても、それだけに頼ることは現時点では限界があるだろう。もちろんこれから先、オンラインとオフラインの行動を一致させるような文化が定着する可能性もある。しかし当面の間は、前述のようなギャップをどこまで埋められるか、各社のさらなる工夫が求められてゆくのではないだろうか。そしてこうした工夫は、オンラインデートの世界だけではなく、「信頼できるベビーシッターを探す」「何らかの専門的スキルを持った人を探す」など、様々なマッチング系サービスにも流用できるノウハウを提供することになるだろう。

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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