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ソーシャルメディアの登場により、ごく普通の人でも大きな影響力を持つという状況が珍しいものではなくなりました。企業にとっても彼らは無視できない存在ですが、「誰がどんな影響力を、どこまで持っているのか」という点は必ずしも明確ではありません。そこで各種ソーシャルメディア上の活動を分析し、影響力を数値で示そうという「ソーシャルスコアリング」の発想が生まれており、KloutPeerIndexといった具体的なサービスが定着しつつあるのはご存知の通り。そしてこの分野でアジャイルメディア・ネットワーク(AMN)が新たにリリースしたサービスが「User Chart」(ユーザーチャート)です。

ちなみに同社からのプレスリリースがこちら:

AMN、5つのソーシャルメディアを横断し影響力を測定する「ユーザーチャート」をリリース~影響力のランキングとユーザー毎に関心ある「話題」や「企業ブランド」を可視化~

User Chartを使うには、まずTwitterもしくはFacebookのアカウントを登録する必要があります。登録して先へ進むと、そのアカウントが独自のアルゴリズムで分析され、影響力が数値化されて表示されます。さらにTwitter、Facebook、mixi、Google+、ブログの計5種類のサービスを連動させることができ、個々のサービスでの影響力を数値化すると同時に、5つのサービスから総合的に判断した「トータルレベル」を確認することも可能。さらに「よく言及しているキーワード」および「よく言及しているブランド」のそれぞれ上位5つまでを表示する機能が備えられています。

例えば僕のTwitterおよびFacebookアカウントのスコアは、それぞれ48と37。これにブログ(スコア62)を含めたトータルレベルは69という結果が出ました。またよく言及しているキーワードとして「データ」と「ビッグ」が(僕が最近ビッグデータ系のネタを追いかけていることの反映ですね)、よく言及しているブランドとして「日本経済新聞」が上位に表示されました(これは情報源としてよく日経を参照しているだけであり、言及しているブランドという表現からは若干ずれる結果です)。

userchart

これだけではただの数字ですが、User Chartではトータルレベル、および各サービスにおけるスコアの上位5名のランキングを見ることが可能で、ある程度他人との比較ができるようになっています(ちなみに現時点でトータルレベルの1位はAppBank氏、Twitterの1位はBill Gates氏、Facebookの1位は坂田誠氏といった結果)。またTwitterアカウントを条件にした検索しかできませんが、他ユーザーを指定してスコアを確認することも可能です。

米国ではKloutは一定の評価を得ていて、企業がマーケティングに活用している例も珍しくありません。例えばAudiは2011年、Audi A8のプロモーションイベントを開催し、Kloutの「テクノロジー」トピックと「ラグジュアリー」トピックで影響力を持つ人々(Kloutではユーザーがどのようなトピックで影響力を持つかを確認することも可能)を招待することでクチコミを誘発するという試みを行っています。日本ではまだそれほどの認知を得ていないKlout、あるいはソーシャルスコアリングという発想ですが、はたしてUser Chartは「和製Klout」としての地位を確立することができるのでしょうか?

仮に何らかのスコアリングが受け入れられるか否か、「スコアそのものの精度×スコアに対する信頼性」という式で考えられるとしましょう。まず信頼性という点では、AMNは日本のブログおよびソーシャルメディアの進展に際して一定の役割を果たしてきており、同社の実施するUser Chartにもある程度の信頼が寄せられる可能性があると考えられます。

一方で精度については、それほど楽観視できないのではないでしょうか。フォロワー数や「いいね!」の数を単純にカウントするだけであれば話は楽ですが、Kloutでいうところの「トピック」毎の影響力まで把握しようとすれば、日本語のテキスト分析にまで踏み込まざるを得ないでしょう。そして先ほどの「よく言及している」機能で見られたように、日本語の文章を正確に把握して分析結果に落とし込むのは簡単な作業ではありません。実は本家Kloutですらも、ロンドンにあるビッグベンを擬人化したアカウント「@big_ben_clock」が「ドラッグ」のトピックで影響力を持つ、と分析するミスを犯していたことが最近話題になりました。

また信頼される指標になればなるほど、それを不正に操作しようというインセンティブが高まることになります。ページランクという指標に対して、SEOというテクニックがどこまで進化してきたかを考えれば、ソーシャルスコアリングに対しても同じようなテクニックが追求されても不思議ではないでしょう。実際にKloutでは意図的にスコアを上げようとする人々や企業が現れており、不正なユーザーを追放するためにアルゴリズムが調整される、という「イタチごっこ」が始まっています。AMNにもアルゴリズムの進化を追求し続けるという覚悟が必要になるのではないでしょうか。

さらに問題なのは、こうしたアルゴリズム調整が、必ずしも「スパム業者の撲滅」と捉えられて歓迎されるとは限らないという点です。2011年後半、Kloutは精度向上のために大幅なアルゴリズム改訂を行ったのですが、その際にスコアが落ちたユーザーから一斉に反発の声が上がるという騒動が起きています。アルゴリズムを公開して釈明することができない以上、こうした誤解や感情論による批判・非難が発生するリスクをゼロにすることはできません。この点でも、AMNにはユーザーとの関係を地道に築いてゆくという覚悟が必要になるでしょう。

とはいえUser Chartの取り組みは始まったばかり。まずはこうしたスコアリングの必要性と重要性を啓蒙し、発想自体の認知を図るところからのスタートとなります。個人的には、AMNに「ソーシャルメディア時代に影響力をどう捉えるか」という大きな視点からもどんどん意見を発信していって欲しいと感じています。

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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